結婚詐欺②
昨日のブログ「結婚詐欺①」の続きであるが、俺は、詐欺男Aに会ったあとで、
ある女性(B子さんとする)に、連絡をとった。
B子さんは、まさに、Aのような男に騙されて、
気がつかないうちに犯罪の片棒を担がされた。
男から「結婚前提」と言われて交際を始めていることや、
早い段階で、男の家族に紹介されていたことなど、
Aの手口とまったく同じである。
B子さんは、最後のぎりぎりのところで真実に気づき、
男と別れ、会社も辞めて、今は故郷に帰っている。
「今でこそ、もう結婚したいなんて思いませんが、
あの頃は本当に、結婚したくて焦りまくっていました」
と、B子さんは言う。
B子さんは高学歴の持ち主で、
卒業後もすんなりと某大手企業に就職した。
入社後は、ライフプランニングを体験する機会もあり、
貯蓄や保険、資産運用などに関するさまざまな情報を与えられた。
そのなかには、「若いうちに結婚して子供を産んだほうが、
トータルでかかる総額は安くてすむ」という説明もあったという。
俺からするとこんなのは、グループ内の系列企業から、
マンションを買わせたり、金融商品の契約をさせようという、
企業側の策にしか見えないんだけどな。
B子さんは、すっかりその気になってしまった。
もともと親からも「仕事もいいけど、いずれは結婚や出産もして…」
と言われて育ってきたB子さんである。
仕事を頑張ろう! と決意する一方で、
結婚相手を探すことにも血眼になったのである。
実際に、職場の同僚や友人との会話でも、
「結婚」は欠かせないテーマだった。
早く産んだほうが健康な子供が生まれる、という話題を耳にすることもあり、
友人たちの間では、「25歳までに結婚しなければ、やばい。
どんなに遅くても30歳までには、子供を産まなければ!」
というのが、暗黙の了解事項のようになっていた。
それは、純粋に子供が好きで、子供が欲しいというよりも、
自分の面倒を見てくれる人間を作っておかなければ! という焦りもあったという。
友人同士が集まれば、「親の面倒はみないとね」と話題になっていたし、
B子さん自身、「老後の面倒をみるのは当たり前」と、
ほとんど洗脳の空気感の中、育てられてきた。
だから自分の老後のためにも、子供は産んでおくのが当然、と思ったのである。
「結婚して子供を産む=自分の面倒を見てもらえる=女として幸せ」
という図式が、B子さんの頭にはあった。
「男の子を産まなきゃ」というのも、
B子さんが友人と言い合っていたことだ。
「今思うと、気分は、歌舞伎役者の奥さんでした」
とB子さんが言ったので、俺は思わず笑ってしまった。
一般女性が「私も小林麻央ちゃんだ!」と思うようなもんである。
大いなる勘違い以外の、何物でもない。
その一方で、出来ちゃった婚は絶対にNO!だった。
世間体が悪いからである。
やがてB子さんは、ある男から「結婚を前提に」交際を申し込まれた。
「私はブスなので、男から『結婚』という言葉を言われたのは初めてでした。
浮かれに浮かれまくり、相手の本当の姿なんて、
何一つ見えていませんでしたし、見ようともしませんでした」
たしかに、こう言ってはなんだが、B子さんは美人の部類ではない。
本人もそれを自覚していたからこそ、
このチャンスを逃すまいと、必死になった。
それに、「彼氏とは結婚を前提に付き合っている」と言えば、
それだけで周囲からは「いいね」「安心だね」と言ってもらえた。
「周りからの信用度も高まり、ステータスを感じました。
一流企業に就職が決まったときと同じような、安心感がありました」
とB子さんは言った。
現実に目を向けてみると、B子さんの会社の先輩たちは、
30歳を過ぎたとたんに、離婚ラッシュを迎えていた。
皆、25~30歳の間に、焦って結婚したひとたちである。
しかし、彼女たちにしてみれば、2、3年で終わる結婚でも、
しないよりはマシなのである。
とくにB子さんの勤めていたクラスの企業になると、
シングルマザーになってもやっていけるだけの年収は得られる。
とりあえず子供を産んでいれば、老後は安泰であり、
ずっと独身でいるよりも、地位が高いとみなされる…というのだ。
だからこそB子さんも、相手の人間性など関係なく、
「学歴がよくて、収入があって、常識的な振る舞いをしてくれて、
結婚しようと言ってくれるひとなら、誰でも良かった」
と、過去を振り返っているのである。
Aの結婚詐欺の手口を、裏付けるような話ではないだろうか。
俺は、Aの手口を聞いたときには、
「どんな女性でも、Aのような男に騙される可能性がある!」
と思って、かなり憤っていた。
しかし、反対側からB子さんの話を聞いてみると、
結婚に対して、それなりの思惑をもっている女性がいることも、分かる。
自業自得は言い過ぎかもしれないが、
お互いの利害が一致するところもあり、
引き寄せ合ってしまったという一面も、あるのではないだろうか。
B子さんはしみじみと言った。
「当時は、35歳を過ぎても独身でいる先輩のことは、
『あのひと、やばいよね』っていう感じで見ていました。
でも今思うと、そういう先輩こそ、本当に仕事ができるひとでした」
俺からすると、B子さんも、働くということに関して
高い能力を持っているひとだ。
本人も今になって、実は結婚にも子育てにもたいして興味がなく、
働いているほうが楽しい、という自分の本音に気づいてもいる。
だがB子さんは、「結婚」にこだわるあまりに、よそ見をしすぎた。
結果として、つまらない詐欺男にひっかかり、犯罪に巻き込まれ、
最終的には職まで失ってしまったのである。
昨日の「結婚詐欺①」を読んで、俺の知人が、
「結婚信仰もカルトみたいなものですね」という感想をくれた。
まさに、その通りだと思う。
行きすぎた結婚信仰は、カルトの恐ろしさを内包しているのだ。