俺が……
昨日は出張から戻ったところで、警察に足を運ぶ羽目になった。
実は昨年、トキワ精神保健事務所の問い合わせを通じて、
俺に仕事を頼んできた人がいた。
スタッフからその内容を伝えられて、
「俺が受けられるものではなさそうだな」と思った。
なぜかはここでは詳しく書けないが、
とにかく俺の手の出せない類の、ヤバい案件だったのである。
翌日には早朝8時に、しかも俺を名指しで電話がかかってきたのだが、
スタッフが対応してくれて、相談の内容も詳しく聞いた。
聞けば聞くほど、介入できる案件ではなかったので、
丁重にお断りした。
しかしその人は、その後も何度も、事務所に電話やメールをよこした。
ついには、アポなしで突然、事務所にまでやってきてしまった!
俺は、はっきりと依頼には応じられないことを告げた。
そして昨日、出張から帰って新聞受けを確認すると、
その人の免許証が入っているではないか!!
慌てて確認すると、それ以外にも俺宛ての手紙(?)らしきものや、
書類、封筒まで入れられていた。
すでに何度も依頼を断っていることもあり、俺は、
これらの書類を警察に届け出ることにし、110番通報をした。
すると警察を待っている間に、なんと!!
その人が事務所の室内にまで入ってきてしまったのである!!!
というのも、ちょうどその時間にエアコンの修理が入っていて、
事務所の玄関ドアの鍵は開けたまま、業者さんが出入りしていたのだ。
その隙を縫って、その人も勝手に入ってきたってわけだ。
さすがの俺も、ちょっぴりドキドキしちゃったぜ!?
「○○さん、あなたは外に出とってくださいよ」
俺が言うと、その人は「はあ」と言いつつも出て行ってくれたのだが、
その場にいたエアコン業者や、立ち会っていた不動産業者も驚き、
不安そうな眼差しで、俺のことを心配していた。
その後、交番に赴いて警察官と話し、
新聞受けに入れられていた書類の類は、遺失物としての扱いにしてもらい、
警察を通じて返却してもらえるよう頼んだ。
担当してくれた警察官は、俺が思っていた以上に、俺の身を気遣ってくれた。
面識があるとは言いがたい人が、こういった行動に出ていること、
そして俺が警察介入を選択したこともあり、
俺の身の安全を、心配してくれたのだ。
また、現場の最前線にいればこその、彼らの現状分析と、
最悪を想定した危機管理についても、アドバイスがあった。
事務所周辺のパトロールの強化も約束してくれて、
帰りは事務所まで送ってくれたのである。
警察の対応には、本当に頭が下がる思いだ。
だが俺は、こういった事態があることも分かったうえで、
この仕事をしているのである。
だから、ますます身体を張って、やるしかない。
それに交番で書類を書いてもらっているときに、
若い警察官が、俺の肩書きは何なのかと聞いてきた。
俺はふだん、「組織に属さず!」「ピンで生きる!」と豪語しているので、
自分の肩書きが何なのか、とっさに答えられなかった。
すると隣りにいた年輩の警察官が、ひと言、
「株式会社で、この形態で仕事してんだから、会社員だろ」と言った。
会社員かぁ……
ふだんあんなに、組織に属している奴らのことを悪く言ってるのにな……
俺もまだまだだな……
昨日の出来事より、そっちの事実のほうがショックだった。
今、刺されて死んだりしたら、警察の広報発表では
「会社員 押川剛」と名前が出てしまうのである。
それだけは避けたいので、
こっちも命がけで対応してやるからな!
俺は筋肉はないけど、贅肉は固いんだぜ!?
それにしてもストーカーに遭う人の恐怖が、
ほんの少し分かった気がするな……。