金がこころを壊す

ある女性から久しぶりに電話があった。内容は、

「彼氏が自殺したいと言っている。どうしたらいいか」

という相談だった。

 

この女性は、何年か前まで覚せい剤に溺れていたのだが、

俺が薬物をやめるよう説得し、精神科病院に連れて行った。

 

専門の入院治療を受けたおかげで、薬物とも縁を切ることができ、

処方されている向精神薬の量も、徐々に減ってきていると言う。

 

彼女は現在、入院中に知り合った男と同棲している。

本当は結婚したいらしいのだが、

今はお互い病気療養中で、生活保護を受けて暮らしているため、

家庭をもつには至っていない。

 

そんななかで相手の男が、定期的に「自殺したい」と言いだし、

手がつけられなくなるらしい。

 

俺は、二人でどんな生活をしているのか、

何が原因で自殺したいなどと思うのか、その生活ぶりを彼女に尋ねた。

 

すると、二人は毎日のように、

「でかいお金をつかもう、大金を稼ごう」

と言い合っているそうなのである。

 

だが、実態は生活保護受給者であり、

入ってくる金額は決まっている。

 

「金のことばかり考えているのが、

ストレスになっているんじゃないのか?」

 

俺が尋ねると、彼女は「そうかもしれません」と答えた。

 

実は彼女も、俺が知り合った当時は、

欲求の塊のような人間だった。

金が欲しいと言って水商売をし、

羽振りのいい男がいいと言ってヤクザと付き合い、

あげくの果てに快楽を求めて覚せい剤に手を出した。

 

薬物を断つために入院していた間も、

もとの生活に戻りたいだのなんだのと騒いだりして、

けっこう大変だったのである。

 

そんな彼女に、俺は厳しいことも言ったし、

本人もきつい入院生活を乗り越えた。

そのせいか、多少は欲求の角もとれたようである。

 

「この状態で、大金をつかむことなんて、できるわけないですよね。

早く生活保護を脱するためにも、

まずは健康を取り戻さなきゃいけないんですよね」

 

俺と電話で話しながら、そんなふうに言った。

彼女には、現実が見えているのだ。

 

だが相手の男のほうは、「金」にとりつかれ、

現実と理想のギャップも、受け入れることができないようだ。

そして疲れ切って、「死にたい」と言う。

 

「大金をつかみたい」「金儲けしたい」という思いは、

行きすぎると、自分の命まで差し出す羽目になりかねない。

 

そのことに改めて気づかされた。