けっこうです

天国と地獄の境の門番。
俺は、自分のやっていることを
そんなふうに思うことがある。

 

今までいろんな人間と関わってきて、そのつど、
俺なりに全力で力を貸してきたつもりだ。

 

結果、まっとうな道を歩き直している奴もいれば、
ヤバい世界が忘れられなくて、戻っていった奴もいる。
結局は本人が決めることだから、止めようもないが、
ヤバい世界に戻る奴に対して、俺にできることはもうない。

 

だけど不思議なもんで、
ヤバい世界に戻っていった奴の消息ほど、
何年も経ったあとに、風の噂のようにして耳に入ってくる。
最悪なのは「死」の知らせだし、そうじゃなくても
ほとんど100%、惨めで辛い噂ばかりだ。

 

その現実を嫌と言うほど見てきた俺は、
ギリギリのところに立っている奴に出会ってしまえば、
「バカやろう!」「そっちに行くな!!」と、
力ずくでも引き戻そうとしてしまうわけだ。

 

そんな天国と地獄の境の門番であるこの俺に、この間、
「けっこうです」
と言った若い奴がいた。

 

「けっこうです」か……
地獄に堕ちて行くには、ずいぶん気取ったセリフじゃねえか。

 

申し訳ありませんが、こちらこそけっこうです。
ごきげんよう。