「宿」の住民
一昨日の夕方、歌舞伎町のホステスからメールが来た。
「先週末、 “九州ラーメン”で一人でメシを食っていたと聞いたんだけど、大丈夫?」
このホステスは、俺が20代の頃からの知り合いである。
当時は、歌舞伎町で名前を知らない者はいないというくらいの、伝説のホステスだ。
今はもう60も過ぎ、現役を退いているはずなのだが、
相変わらず歌舞伎町に棲息しているだけあって、さすがの情報網だ。
町内会のおばあちゃんみたいだなと思った。
俺は独り身なので、事務所近辺のメシ屋で、一人でメシを食うこともある。
“九州ラーメン”でメシを食ったのも、
別に故郷九州に思いを馳せたわけでもなんでもなくて、
事務所から近かったからである。
しかし、歌舞伎町の主ともいえるホステスから、 “安否確認”のメールが来たことで
俺も新宿の住民なんだな…ということを改めて感じた。
ここに長らく住んでいる人間は、新宿のことを気取って「宿」なんて言ったりする。
俺もようやく「宿」の人間になったのかもしれない。
薬局に用事があったので外出し、そのまま高田馬場まで足を伸ばした。
もちろん足は自転車である。
えらく値段の安い、大阪風の串揚げ屋を見つけたので、
夕飯はそこでとることにした。
串揚げは量も多く、味は悪くはなかったが、
40代の俺の胃袋には、ちょっと重かった。
帰り道、事務所の近くにあるマンションの前を通ったところ、
玄関ホールに花やお菓子、ジュースが手向けられているのが見えた。
このマンションで先日、殺人事件があったのだ。
「宿」には殺人事件も身近に起こる。
色んな意味で凄い街だが、
俺もとうとう、町内の人間のように扱われるようになった。
『探偵物語』みたいだな。