俺が唸った! 名言 その3
「人間はきれいに生きていくことはできないのよ。
だからって言ってね、汚く生きていってはだめ。
『きれいに汚れて』生きていかなくちゃだめなの」
(昔、毎日通っていた新宿二丁目の飲み屋のホモ親父)
昔、新宿二丁目に「キャビン」という飲み屋があった。俺は店主のホモ親父と非常に気が合い、毎日のように店に通っていた。ホモ親父と言っても、おかまさんのような女性っぽい身のこなしの持ち主で、俺は毎晩、彼に夕飯を作ってもらっていたのだ。もうだいぶ前に店を閉め、ホモ親父も夜の仕事を引退してしまった。しかし彼からは、いろんなことを学ばせてもらった。
俺が二丁目のおかまさんたちをリスペクトしているのは、彼らが非常にたくさんの人間を見てきているからである。正直に言って彼らの生きる世界は、一般的にみたらアウトサイダーであり、枠外、欄外と感じるひともいるだろう。実際に「キャビン」にも、ホモ親父をハナっから蔑んだり、馬鹿にしたり、イロモノキワモノとしか見ない奴らも、客としてたくさん来ていた。そこには、その人間の本性、“素”が丸出しになっていたと、俺は思う。
それは、俺が連れていった客でも同じだった。俺や、大企業のえらいひとの前では、紳士的常識的に振る舞っていた人間が、酒が入ったとたん、ホモ親父に向かってバカだのホモだの、蔑みのオンパレードなのである。俺はビックリして、そのときは「飲みすぎかな?」とか思ったのだが、あとあとになってみると、結局そいつはその程度の人間でしかなかった。
ホモ親父は客商売だから、どんな客が来ても、笑って流したり適当にあしらったり……、時には男らしく怒鳴りあげて追い出すこともあったが(笑)、一人の人間として扱っていたように思う。だからこそ、二丁目で一生懸命まじめに商売をしてきたおかまさんたちは、心の中に「人間の標本」を持ち、「人生哲学」を持っている。俺はそこに、絶大なる尊敬の念を抱いているってわけだ。
「キャビン」のホモ親父も、ふだんはまじめな顔して下ネタしか言わないのだが、ときどき、ハッとするような人間の話や、人生哲学を教えてくれた。「『きれいに汚れて』生きていかなくちゃだめなの」なんて名言も、未だに俺のこころに刻まれている。
「キャビン」のホモ親父は、現役時代にしこたま金を貯めて、引退後はお鎌倉(オカマくら)に引っ越し(笑)、悠々自適の生活を送っている。……と思っていたら、一年くらい前から、巨大スーパーの駐車場で警備のアルバイトを始めたらしい。本人は「ボケ防止のため」なんて言っているが、あまりに丁寧なお客様への対応と、夜勤の時にめっぽう元気がいいということで、今ではアルバイトの立場ながら、夜勤警備員の総主任を任されているとのことだ。
すげえな! と俺は、嬉しくなった。二丁目で輝いていたときの、あの優雅な物腰で、おケツをふりふりしながら、車の誘導を行っているのだろう! まったく、尊敬せずにはいられないひとである。