動物を雇う
「会社の業績を上げたい、一発逆転を狙いたい、
そう思うなら、人間を雇っちゃだめだよ」
これは、某大企業の重役Aさん(仮名)が、俺に教えてくれたことだ。
Aさんはこれまで、あちこちの部署、子会社に飛ばされながら、
どこへ行っても黒字を出してきた、すごいひとでもある。
「押川……、勝負に勝つときに必要なのは、動物なんだよ。
ゾウさんとかライオンさんみたいな……
そういう“動物”みたいな奴が、いい仕事をする」
「水牛さんみたいに、ふだんはボーッとしてる奴がいてもいい。
一年に一回、五年に一回かもしれないが、
でっかいことをやってくれるからな」
「“人間”なんか、実は一番、働かないんだよ。
金を稼ぐことより、遣うことしか考えていないのに、
文句だけは、あーでもない、こーでもない並べるだろ?
それに比べて動物は、メシ食うために一生懸命だよ!」
俺は、なるほど! と唸ってしまった。
「サッカーの日本代表が負けたのだって、
今のチームは、“人間”しか集めてないからな。
あの中で“動物”なのは、本田選手と長友選手くらいだろ。
海外は、ゾウさんやライオンさんみたいな選手が集団で来るんだから、
人間には何もできなくて当たり前だよ」
俺はサッカーには詳しくないが、
コートジボワールのライオンさんみたいな選手を思い浮かべて、
妙に納得がいった。
俺も今までに「本気塾」などで、
過去にいろいろ悪いことをしてきた“動物ちゃん”みたいな奴らと接してきた。
おそらく多くのひとが、「接したくない」「近づきたくない」と思うような連中だ。
しかし、この“動物ちゃん”の中には、
ずば抜けた能力を持っている奴が、多いことも事実だ。
何しろエネルギーが違うし、ここ一番の勝負には、意地でも勝ってくる。
正しい方向に力を使ったときには、ものすごい結果を出す。
会社の経営者や人事担当者の立場からしたら、
“動物ちゃん”より、“人間”を選んでしまいがちだ。
“動物ちゃん”を手なずけるのは、けっこう大変だからな。
でも、会社として業績を上げよう、勝ち上がろうと思ったら、
こういう“動物ちゃん”をたくさん集めて、
懐柔し、操縦していかなければならないのだ。
これを教えてくれたAさんは、今までずっと、
“動物ちゃん”を集めては、面白いことをやってきたのだろう。
だから金も稼げた。
猛獣使いだ。さすがだな。
Aさんは、本来なら、俺なんかが気軽に会えるような立場のひとではないのだが、
なぜか最初に会ったときから、かわいがってもらっている。
Aさんは話の最後に言った。
「押川、お前も人間じゃないからな。だからいいんだよ」
な・る・ほ・ど・ね。
俺は大笑いしてしまったのだが、最高の褒め言葉として、嬉しく思った!