スティングの子育て

こんな記事があった。

 

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(以下引用:GQ JAPAN 2014年6月23日)

 

「働いて金を稼げ」資産312億円のスティング、子供には財産を譲らないと明言

 

子どもをダメにする最も効果的な方法、それは欲しいものを何でも買ってあげること。

英国を代表するミュージシャン、スティングもそのことをよく知っているようだ。

 

海外ドラマを見ていると、よく「親からの信託財産が○万ドルあるから……」

「20歳になったから信託財産が受け取れるの」といったフレーズを耳にする。

欧米では、ある程度の財産を持つ親は子どものためにまとまった金額を銀行に預け、

いざというときのために資産形成しておくケースが多い。

 

しかし、億万長者であるにもかかわらず「子どもには一切の財産を渡さない」と宣言したセレブリティがいる。

その名もスティング。ポリスの元フロントマンにして、グラミー賞受賞回数16回、

才能と実力で1億8000万ポンド(約312億円)の資産を築き上げた音楽界の大立者だ。

1976年に結婚した最初の妻フランシス・トメルティとの間に2人、

現在の妻トゥルーディ・スタイラーとの間に4人の子をもうけたが、偉大なる父スティングは

「うちの子たちは銀のスプーンをくわえて生まれてきたと思うだろ? でも俺はまったく甘やかしてこなかった。

財産を残すつもりもない。なぜなら俺たちが全部使うからさ!」と断言。

 

その言葉通り、6人の子供たちに信託財産はおろか、遺産さえも相続させるつもりはないという。

しかし、この発言の裏には「きちんと働いて金を稼いでほしい」という親心があるようだ。

「彼らは働くべきなんだ。俺の子ども達はみんなそれをわかっていて、頼み事も滅多にしてこない。

俺はそんな子ども達を尊重しているし、高く評価しているよ。

もし、誰が見ても困っているようなら手は差し伸べるさ。

でも、そんな必要はないだろうね。みんなそれぞれ、自分たちを成功に導くための労働倫理を持っているんだ」

 

このように、自らの子どもを金銭面で甘やかさないことを信条としている有名人は意外と多い。

テレビ番組でも人気の料理研究家ナイジェラ・ローソンは、

「自分でお金を稼ぐ必要がないという状況は、その人を破滅させます」という持論の元に、

自分の子どもには財産を一切遺さないと宣言している。

また、イギリスを代表する億万長者デイヴィッド&ヴィクトリア・ベッカム夫妻の長男ブルックリン(15)も、

ロンドンのコーヒーショップで時給2.68ポンド(約465円)のアルバイトを始めたという。

 

親の金で生かされているうちは一人前ではない。

出そうと思えばいくらでも子どものために金を出せる成功者が、努力した報酬として金を得る喜びを子どもに教える。

それこそが何よりの財産と言えるのではないだろうか。

 

Masako Iwasaki

 

http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20140623-00010005-gqjapan-life

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まったく素晴らしいな、スティング。

もともと小学校の国語教師をしていたようなひとである。

確固たる哲学をもっているのだろう。

 

俺の依頼になるようなケースでは、

まさに、スティングの子育てと真逆のことが行われている。

 

記事にあるような、「欲しい物を何でも買ってあげる」とか、

多額の小遣いを与えるような、あからさまなやり方はさすがに少ないが、

成人した子供にマンションを買い与えたり、

不動産による不労所得が毎月入るよう、お膳立てしている例は、けっこう多い。

 

もちろん、親の財産があろうと関係なく一生懸命働いているひともいれば、

贅沢三昧でルンルンランラン♪ と毎日楽しく生きているひともいるだろう。

 

しかし、一生遊んで暮らせるだけの金がありながら、

心のバランスを崩してひきこもり、

やがて精神疾患を発症してしまうひとも、いるのである。

 

このようなケースの子供に多いのは、

親以上にでかいことをしよう、でかい金をつかもうと考えてしまうことである。

ある程度までは真面目に勉強したり、企業で働いたりしていたのに、

「自分で会社を興す」「社長になる」とか言い出して、やめてしまう。

 

だが現実には、金の使い方は知っていても、

金の稼ぎ方は知らない(親から教わっていない)から、うまくいくはずもなく挫折する。

そして、「何もない自分が頼れるのは、“金=親の財産”だけだ」と考えてしまう。

 

親の財産に執着するがゆえに、

兄弟姉妹が敵に見えて、被害妄想を抱くようになることもあれば、

親を支配しようとして、暴力や暴言を繰り返すこともある。

 

俺が移送したある患者さんは、入院して症状が落ち着いたあとで、

将来の自分(どうなりたいか)について尋ねられ、こんなふうに答えた。

 

「最後の最後には、良かったなと思える将来(自分)でありたいです」

 

この患者さんも、金にはまったく不自由していない。

それでも、満たされない思いがあるのだ。

金では手に入らない物がごまんとあることの、証ではないだろうか。

 

親は子供に、自分の持っているプラスの要素を与えたり、

引き継いでもらいたいと願うものだが、

実は、プラスよりマイナス要素のほうが引き継がれやすいと、俺は思っている。

 

とくに大人になればなるほど、親の持っているヘンなところ、

おかしな性質が、色濃く出てきてしまう。

若い頃、親を見て「こうはなりたくない」と思っていたはずなのに、

大人になった自分がソックリ同じことをしていたというのは、よくある話だ。

 

子供にプラスの生き方をしてほしい、と思うなら、

つまらない継承(財産を継がせるとか、仕事を継がせるとか)など捨てさり、

一人の人間として生きていけるよう、導くしかないのだ。

スティングの子育てのように。

 

それにしても、働くこと、社会参加して自力で金を稼ぐことの大切さを、思い知らされるな。

 

このブログの読者の中にも、「仕事が辛くて仕方ない」

「できれば遊んで暮らしたい」「ありあまる金がほしい」……

なんて思っているひとがいるかもしれないが、

働く場所がある、辛くても頑張って仕事にいける自分がいる、

それはとても健康的で、幸せなことなのだ。