パーチー

先週の金曜日、アメリカ在住の会計士Tさんに誘われて、

弁護士先生の集まる会に行ってきた。

 

Tさんは、福岡からガチンコでアメリカに渡り、

今もガチンコで勝負しているすごいひとである。

 

俺はTさんから、概要だけ聞いて会場に行ったのだが、

受付の雰囲気を見た瞬間、「俺のようなガテン系が来るところじゃねーな」と悟った。

受付の品の良い女性に「何の集まりですか」と、聞いてみると、

「弁護士の先生方が集まるパーティーです」と、これまた品の良い答えが返ってきた。

「パーチーか……何事も勉強だな」。俺が意を決して中に入ろうとしたら、

受付の女性から「ここに名刺を入れてください」と、名札入れを渡された。

それは横書き専用の首つり名刺入れだった。

 

俺の名刺は、世界的特殊技能者専用に作ってあるため、

一枚100円もする。しかも、肩書きなし。しかも、縦書き。

そのケースに名刺を入れると、押川剛が横に倒れた。

押川剛が病気休養中、といった感じすらしたので、

俺はワイシャツのポッケにそれを入れて見えないようにした。

 

横名刺入れ

 

さて、会場の中に入ると、パーチーはTさんの紹介だけあって、

アメリカの弁護士ライセンスを持った秀才、才女の集まりであった。

日本人だけでなく外国の方も来ていた。

 

そのせいか、皆さん非常に気さくで、俺みたいな人間にも話しかけ、名刺をくれる。

普段、歌舞伎町のキャッチからも声をかけられない俺……、

黒人のキャッチですら俺には声をかけてくれないというのに、

さすが国際的にも活躍している弁護士先生は違う。

 

がしかし、皆さん俺の名刺を見るなり、反応がツーテンポ遅れる感じになった。

それをすべてTさんがフォローしてくれていたのだが、

まあ、とにかく俺は、場違いなところに来たことを実感した。

 

宴もたけなわといった風情で大いに盛り上がる中、

ガテン系の俺は、そろそろタバコが吸いたくなった。

灰皿を探して周りを見渡しても「タバコは吸いませんよ」「煙なんか大嫌いです」みたいな面々ばかりなので、

俺はしかたなく会場から出て、受付の女性に灰皿があるところを尋ねると、

非常階段の所にあると教えてくれた。

 

灰皿の置かれた非常階段は、会場の雰囲気が嘘のように、殺伐としていた。

玉ねぎの入った箱や酒の空き瓶が転がり、完全に雑居ビルである。

俺にとってはまさにホームの空気感であり、落ち着いてタバコを吸うことができた。

 

そのうちに中国人の従業員が現れ、隣りでタバコを吸った。

「弁護士の先生ですか」と、中国なまりの日本語で聞かれたので、

「私は先生じゃないですよ」と答えると、彼はニコッと笑った。

その顔には、「だよね~」という微笑みが浮かんでいた。

 

再び会場に戻ると、今回のパーチーのメインである弁護士先生が、

わざわざ俺を探して声をかけてくれた。

この先生は、一声かけるだけで100人のスーパーエリート頭脳集団が集まるという、人望の厚い先生で、

さすがに、超イケてる感じのひとだった。

しかし話をしていくうちに、意外なことに共通の知人がいることが発覚した。

世間は狭い、いや、日本は狭いなと俺は思った。

 

それからまたしばらく、ひとの間を泳いでいると、ある若い先生のところで、

「お! こいつは面白そうだな」と、俺の動物センサーが働いた。

名刺交換をして会話を重ねていくと、やっぱり俺と波長がばっちり合うのだった。

 

その先生は現在、六本木ヒルズの事務所に勤務しているが、

聞けば出身は、埼玉県の草加市だという。

俺が「草加市からよくぞ、六本木ヒルズに上りつめたな。

しかもカルフォルニア州でもライセンスをとって、たいしたものだ!」と褒めると、

「草加市から六本木までは、電車一本で行けますよ」なーんて、また面白いことを言ってきた。

 

あんまりおもろい奴なので、俺が

「腹いっぱい飲めて食えて、2千円でおつりがくる居酒屋。ただし汚い」の話をしてやると、

「是非連れて行ってください!」と、まさに脚気(かっけ)脳とも言える反応を示した。

 

裏も表もない良い感じの先生だと、俺はますます感心した。

 

弁護士は一般的に、非常に難しい試験を突破しなければなれない。

いわば特権階級であり、サラリーも良いという印象があるが、

意外と、表だって派手な生活している先生は少ない。

 

しかし俺はあえてこの先生に

「ひとから借りたのでもいいから、フェラーリに乗れ!」

とアドバイスをしておいた。

「フェラーリ弁護士。そんな感じで派手にメディアに出たほうがいいな」と、

俺の直感が告げたからだ。

 

先生は俺の提案にびっくりしていたが、マインドが高く、なおかつ頭もよくて脚気脳もいい人間なら、

多少派手にしたところで、人生が崩れることはない。

むしろ、若いうちにそういうデタラメもやっておいたほうが、

予想外の経験や、面白い体験が派生するものなのだ。

そう思って、デタラメ代表の俺は、非常に親切なアドバイスをしておいた。

 

パーチーのあと、俺はTさんと新宿2丁目に繰り出し、旨い酒を飲んだ。

そしてそのまま仕事に行き、夕方、事務所に帰ってくると、

くだんのフェラーリ弁護士から、丁寧なメールが来ていた。

 

パーチーでは結構な数の名刺交換をし、長々話しあった先生は他にもいたが、

メールをくれたのは、フェラーリ弁護士たったひとりだった。

 

そしてメールの最後には「追伸:2千円の居酒屋、是非行ってみたいです!」と書いてあった。

俺は、こいつを飲みに連れて行ってやろうと決めた。プラス2丁目にもな。

 

将来ますますいい弁護士になりそうな男である。

人間味と人間力を併せ持った、楽しい付き合いができそうな仲間が、またひとり増えた。

いいパーチーだった。