軽い
以前、厄介事に巻き込まれていたところを助けた若い奴から、
久しぶりに電話があった。
「押川先生……助けてください……」
と、幽霊みたいな弱々しい声で泣いている。
どうやら再び、別の厄介事に巻き込まれたらしい。
トラブルを引き寄せる磁石みたいな奴である。
でもそいつだって、前回、俺のところから巣立つときには、
「もう悪いことはしたくない、真面目に生きていく」と誓って出て行ったのだ。
本人がその誓いどおり、将来設計を描きながら、
頑張って働いていることは、俺もちょっとは耳にしていた。
それなのに、気がついたときにはまた、ワケの分からない集団にカモにされて、
にっちもさっちもいかない状況に陥っている。
実は、こういった同じ過ちの繰り返しは、そいつに限ったことではない。
自分では、一生懸命やっているつもりなのに、
絶え間なく同じようなトラブルに巻き込まれる。
そういう奴らの共通項で、俺が一番に思うことは、とにかく「軽い」ってことだ。
口が軽い、尻が軽い、人間が軽い。
だから、ニコニコ顔で近づいてくる人間がいれば、何も考えずにニコニコする。
相手がペラペラしゃべれば、自分もペラペラしゃべる。
ちょっと褒められたりおだてられたりすれば、簡単に股をひらく。
俺に言わせれば、「ノリだけで生きてるな~」って感じだ。
その軽さゆえだろうか、転々するのが大好きなのも、彼らの特徴だ。
ひとも、仕事も、生きる場所も、飽きれば簡単に捨てていく。
若いうちはそういう生き方でも笑っていられるかもしれないが、
年齢を重ねるほど、履歴はめちゃくちゃになっていく。
良からぬことを企む奴らは、その履歴を見たり聞いたりしただけで、
美味しいカモちゃん確定!! と判断するだろう。
「あなたの大事な人生、重くしてくださいよ」
俺は常々、本気塾に来る若い奴らに、そう言ってきた。
そのためには、地に足つけて地道に働くしかないし、
長い時間をかけて、大切なひととの信頼関係を築いていくしかない。
単純かもしれないけど、「自分はこれをずっとやってきた」と言えることや、
通すべき筋を通してきた、そういったことが積み重なって初めて、
生き様や人間に重みが出るのである。
それができなくて、どうしても「軽い」部分が顔を出すのは、
もはや、性(さが)としか言いようのないものかもしれない。
困ったものである。