命を粗末にする子育て

以前、ある事情から関わりをもった若い奴から、

久しぶりに連絡があった。

 

声に元気がないので、どうしたのかと尋ねると、

母親のことで相談があると言う。

 

俺はそれだけで気が重くなった。

 

実はそいつは、俺が出会ったときすでに、

いろいろなヤバいところに足をつっこみまくっていて、

大袈裟ではなく、いつ命を失ってもおかしくない状況にあった。

 

俺は、ひととして関わりをもってしまった以上、

見て見ぬ振りをするわけにもいかず、

本人がそこから抜け出せるよう、力を貸した。

 

その過程で、そいつの母ちゃんがとんでもない、デタラメな母親であることが発覚した。

 

一番驚いたのは、本人は母親から「あなたの父親は病死した」と聞かされていたのだが、

それがまったくの嘘っぱちだった、ということだ。

実は、両親は結婚・離婚を繰り返しており、

最終的には父親の生死も分からないような状態だったのだ。

 

そいつは、俺といろいろ話をするうちに、

自分の生きてきた環境や、母親から聞かされてきた話に疑いを持つようになり、

戸籍をとって初めて、事実を知った。

 

戸籍謄本を突きつけて母親を問い詰めても、のらりくらりと交わされ、

「昔のことをほじくり返す、あなたのほうがおかしい」と罵られる始末だったという。

 

そんなこともあって、そいつは一念発起し、

「母親とは縁を切り、自立して生きていく」と決めたのだが、

そのとたんに、母親からの執拗なメール、電話の攻撃が始まった。

 

それも無視し続けていたら、とうとう、

「子供にこんな仕打ちをされて、私はもう死にます、さようなら」

というメールが来たのだという。

 

さすがに泡を食って、俺に電話をしてきたってわけだ。

 

これが母親のすることだろうか……。

 

と、多くのひとが思うだろうが、

実はこの手の強烈な“縛り”を、子供にしている親(特に母親)は、けっこういる。

 

自分の見栄やプライドを満たすため、あるいは老後の面倒でもみさせるために、

あの手この手で子供を縛りつけ、自分の思うとおりの生き方をさせようとする。

 

そのために身体的な虐待だけでなく、心理的な虐待もするし、

ああしなさい、こうしなさい。あれはダメ、これはダメと、

まるで牢屋に閉じ込めるようにして、育てる。

 

挙げ句の果てには、「死」を持ち出して、取引する。

 

「死」の取引も、この母ちゃんくらいに直接的なのはたしかに稀だが、

たとえば子供の前で弱々しく振る舞ったり、すぐ泣きわめいたりして、

「自分がいないと、母親はダメになるかもしれない……」と子供に思わせる、

そういうやり方をしている親は、ごまんといる。

 

特に俺が関わってきた家族の問題では、

本当に、よくお目にかかる風景なのだ。

 

俺からすると、ずいぶん「生死」を軽く扱う親だなあ、と思う。

 

親がそうやって「生死」を軽く扱っている以上、

子供が、こころの病気になるのも、当たり前である。

命を軽く扱う犯罪者に育つのも、当たり前である。

 

俺は、こういう母ちゃんたちに言いたい。

 

子供が真実に気づき、親とは違う生き方を、

一代から始めようとしたなら、せめてその足をひっぱらない。

 

そのくらいのことは、してやれよ。