高倉健さん
高倉健さんが亡くなった。
俺は、作品をたくさん観ているような熱狂的なファンではないが、
以前、NHKでやっていたドキュメンタリーを観て、いたく感動した覚えがある。
芝居にかける情熱と、そのストイックな生き様に、
「俺もこういうふうに年をとりたいものだ」と、素直に思った。
高倉健さんの最後については、事務所からのコメントで、
生ききった安らかな笑顔だったことと、
座右の銘「往く道は精進にして、忍びて終わり悔いなし」が発表されていた。
最後までかっこいいなと、俺は思った。
そういえば、いつだったか俺は、ある医者が
「人間の死にぎわは、誰もが、虫けらのように苦しんで死ぬものだ」
と発言しているのを聞いた。
医者のくせにずいぶん了見の狭いことを言うなあと、俺はぼやいた。
そういうひともいるかもしれないが、そうじゃないひともいると思う。
俺の知人は、壮絶な事故に遭った直後、
駆けつけた救急隊員に「大丈夫だ」と一言だけ残して亡くなった。
肉体的にかなりの衝撃を受けたにも関わらず、
痛い苦しいとは、ひと言も言わなかったそうだ。
筋を貫いて生きた、懐の深い、やさしいひとだった。
その生き様があらわれた死にぎわだったと思う。
高倉健さんもそういう感じだったのではないかな……
と、勝手ながら俺は想像し、こころの中で手を合わせた。
俺もいつか必ず死ぬ。
畳の上で死ねるとは限らないが、俺も九州男児だ。
せめてみっともない死に方にならないよう、今を精一杯生きるしかない。