トラブル増加の現実
少し前になるが、精神科医療に従事する関係者から、こんな話を聞いた。
精神保健福祉法改正後、やたらと早期退院を促すようになった保健所に対して、
「早期退院により地域でのトラブルが増えている現状について、どのように考えるのか」
と尋ねたところ、明確な回答はなかったそうである。
保健所が、回答どころか否定もしなかったということは、
法改正によるマイナスの余波が、
現場レベルではすでに認識されていることに他ならない。
ある警察関係者からは、これを裏付けるような話を聞いた。
「今年4月の精神保健福祉法改正後は、
精神障害を患う患者による犯罪件数が増加している。
また、家族間の殺傷・トラブルが、約6割を占める。
現場に駆けつけた警察官が、措置入院すべきレベルだと判断しても、
保健所など当該主管行政機関から、以前にも増して
『患者の人権重視』を強く訴えられるため、
スムースに医療につなげることができなくなってしまった」
誤解のないように言っておくが、俺は、
精神障害者=事件や事故を起こす危ないひと、と言いたいわけではないし、
精神障害者は長期入院させればいい、というような
短絡的な主張をしているわけでもない。
厚労省は、長期入院患者の数を減らすことに躍起になっているようだが、
数さえ減らせばそれでいいのか。
実際に現場でこの問題に携わるひとたちからは、むしろ、
トラブル増加を体感する声が上がっているのだ。
俺のところにくる相談は特にハードなケースが多いので、
「早期退院を促されているが、病状が良くなったとはとても思えない」
「家族での対応は無理だが、退院後の受け入れ先もない」
という嘆きの声が、連日、持ち込まれている。
国(厚労省)は、この実態をどう受け止めるのか。
せめて正確な実態調査なり、情報収集なりを、早急にすべきではないだろうか。