何よりも興味深い
俺が、移送や自立支援など精神保健の業務に携わるとき、
入り口として、俺と家族との「面談」があるのだが、
実はその前に、すべての礎となる業務「ヒアリング(聞き取り)」がある。
これは対象者の現状、既往歴だけではなく
生育歴、家族・友人との関係、趣味嗜好まで、
本人に関するあらゆることを聞き取り、まとめる作業だ。
昔はそれも含めて全部自分でやっていたのだが、
今はヒアリングに関しては、うちの事務所のスペシャリスト(スタッフ)に任せている。
基本的に、対象者の両親からの聞き取りになり、
場合によっては両親の生育歴や家族背景まで追っていくので
このヒアリングだけでも2~3時間はかかる。
そして、聞き取った内容を「ヒアリング表」として文章化する。
そのまま書き起こしたら、レポート用紙何十枚になるレベルだが、
そこは俺もスタッフも十分な経験を積んでいるので、重要な点、ポイントだけを書き出す。
それでも、レポート用紙4、5枚分はある。
不謹慎かもしれないが、俺はこの「ヒアリング表」を読むのが大好きだ。
どんなノンフィクションや小説よりも、興味深い。
家庭内で起きている事件、複雑な親子関係。
行政や医療機関からもはじき飛ばされたケース……その内容もさることながら、
「俺に何ができるか」「俺ならこうする」と、
これまでの経験則にのっとり、あれこれ思考を巡らせながら読む時間が、
俺にとって、最も充実したひとときとも言える。
もちろん、一度読んだだけでは、答えは出ない。
だから俺は、面談待ちの家族のものも含め、現在進行形の案件のヒアリング表はすべて、
常に目が届くように、机の上に並べてある。
そして、何度も繰り返し読む。
読むたびに、疑問がわき、自問自答する。
時間を作ってはそれを繰り返していると、あるとき、
「これしかねーな」という解決策が浮かびあがる。
家族との「面談」の前に、俺はここまで準備をして、
少なくとも、その時点での最高の答えを出しているのだ。
もちろん実際に業務が始まり、本人に直接会うようになれば、
イレギュラーな出来事も多々起きるし、流れが変わることもある。
しかし結果としては、最初に思い描いた地点から、大きくはずれることはない。
だから、俺がすごく嫌なのは、金まで払って面談に来ているのに、
俺の言うことにいちいち難癖つけたり、反発したりして、
真剣に耳を傾けてくれない家族。
こういう家族に関しては、面談は受けても、業務自体はお断りするし、
正直言うと、「金はいらないから帰ってくれ」と、途中で帰らせた家族もいる。
ほんと、俺の話を家族が真剣に聞いてくれたら、
難問でさえもキチッとなるのにな。