現場という仕事

この間、テレビ業界のディレクターと酒を飲んでいて、なるほどなあと思ったことがある。

そのディレクターは、俺より若くて、ほとんどフリーの状態で映像の仕事をしている。彼は言った。「僕はずっとディレクターの仕事がしたいんですよね」。

 

ディレクターというのは、完全に現場の仕事だ。ネタになりそうな現場を探して、取材相手と人間関係を作り、昼夜関係なくカメラを回す。もちろん知識とかセンスも必要なんだろうけど、 内情を知れば知るほど、肉体労働だよなあと思う。

だけど彼は、その現場にずっといたいんです、と言うんだ。「面白いからですよ」という理由で。

 

それは、彼がフリーの立場だからできることでもある。組織に入ってしまったら、年齢を追うごとに、違う役割を求められるようになるからね。

どの業界でもそうなんだけど、ちょっと前まではガンガンに業界最先端の仕事をしていて、俺から見ても「この人、ちょっとヤバいなあ」と思うくらい突き抜けていた人が、ほんの数年のうちに、ガクッと元気がなくなってしまうことがある。それって、その人が本来やっていた現場の仕事を離れたときなんだよな。

 

「面白いモノをつくろう!」「世間をアッと言わせることをやろう!」。そうやって現場で仕事をしていた人が、組織で立場が上がっていくにつれて、上下の人間関係やら派閥やら金のことやらで、頭を悩ませるようになる。だから俺みたいな単純な人間からすると、元気がなくなったように見えるんだな。

ディレクターの彼は、俺にそれを教えてくれた。

 

「押川さんは、この先どうしたいんですか?」

そう聞かれて改めて思ったのは、やっぱり俺もずっと現場にいたい!ってことだ。

俺の現場というのは、キワキワまでいった人の相談に乗ることであり、凶器を持って暴れるようなアブない人と話をすることである。誰がなんと言おうと、俺はその現場が好きだし、ヤバければヤバいほど、「よっしゃ! 俺がなんとかしちゃろぉぉぉ!!」とアドレナリンが出る。体力的にはほんとにきついけどね。

 

この国っていまだに、「大企業に就職=勝ち組」「出世=幸せ」みたいな図式がまかり通っているけど、生涯現場!っていう幸せもまた、あるんじゃないかなあと思った夜だったよ。