オオゴトにするタイミング②

昨日の記事の補足になるが、

子供が精神疾患と診断されながら、なかなか入院治療に結びつかず、

家庭内では、暴力行為を始めとする問題行動をとる。

(場合によってはそれが、近隣住民など第三者に向かう)

 

家族はあちこちに相談にいっているが、どうにもならず、

家族間で殺傷事件が起きるほど、疲弊している。

 

こういったケースは、俺のところへの相談でも、

10年ほど前から見受けられるようになり、ここ最近、爆発的に増えている。

 

対象者の年齢は30代~40代がおもで、

生活形態としては、定職に就いていない、半ひきこもりが多い。

 

家庭内暴力や無職というポイントだけでは、

精神科医療の範疇にはならないが、

こういった対象者の多くが、過去に精神科に入通院歴があり、

現在の日常生活においても、

・入浴や散髪をしない

・ほとんど部屋に閉じこもっている

・被害妄想が強く、何かあると家族を責め立てる

・強迫観念により、日常生活に支障を来している

・身体疾患を放置している

・部屋の中で排尿や排便をしてしまう

など、こころのバランスを崩しているとしか思えない行為を伴っている。

 

だからこそ家族は、「医療につなぎたい」と思うのだが、

保健所も医療機関も、協力してくれない。

 

では、強制力を持った措置入院で対応できるかと言うと、

保健師や警察官の前では大人しくなり、普通に会話ができてしまう。

ひきこもりがちとはいえ、コンビニなど近所への外出はできる。

単発のアルバイトをしているような対象者もいる。

……といったことから、措置入院には至らない。

 

こうして行き場をなくした家族の結果が、

八王子で起きた、親子の殺傷事件である。

 

ここまで追いつめられた家族がいることは、

保健所も医療機関も、十分に理解しているはずだ。

 

それなのになぜ、保健所は医療につなげることをしぶり、

医療機関は受け入れを拒むのか。

 

それはつまるところ、

【こういった対象者を受け入れることのできる医療機関が少ない。

……というか、ほとんどない】

ということに尽きる。

 

なぜならこのような対象者の背景には、

「精神疾患」のひと言では片付けられない問題が、積み重なっているからだ。

 

もともと内向的、対人能力がないなど、性格や性質によるところもあるだろう。

家族との関係や育てられ方に原因の一端があることもある。

 

なおかつ、早い時期からのドロップアウトやひきこもりにより、

社会性を失い、日常の基本的なこと(掃除や洗濯、炊事など)すらできない、

ということが、非常に多い。

 

こういった対象者には、ただ薬を投与するだけでは、

社会復帰にまでは、結びつかない。

 

精神療法や認知行動療法、弁証法的行動療法といった、

本人の内面に深く関わる治療とともに、

生活指導をはじめ、社会性や協調性を身につける訓練、

就労訓練などを行えるプログラムが、必要とされている。

 

では、なぜこれができる医療機関がないのか? と言えば、

治療に時間を要することもあり、

現行の精神保健のシステムでは、ぶっちゃけ、儲からないからだ。

 

それでも以前は、「なんとかせねばならない」という志でもって、

時間をかけて治療を行ってくれる医療機関や医師もいた。

 

しかし、昨今の厚労省による早期退院の推進で、

入院期間は基本的に三ヶ月と定められている。

少しでも入院が延びている患者がいると、

保健所(厚労省)から、執拗なまでに指導が入るそうである。

 

だからこそ多くの医療機関は、上記のような背景をもつ対象者は

「入院しても良くならないから」と、最初から受け入れない。

 

これは先日、ある精神科病院の職員の方から聞いた話だが、

この精神保健の流れにより、最近は、

難しい対象者にうまく携わるスキルのある職員(医師、看護師、ワーカー)が減り、

表面的な、お役所対応の職員ばかりが増えてきているそうだ。

 

このような現実を前に、それでも俺が、

「精神科医療からのアプローチが必要だ!」と訴えるのは、

こういった問題を生み出した一端に、

これまでの精神保健のシステムが関係していると思うからだ。

 

この10年ほどの間で、町を歩けばいたるところに

心療内科やクリニックを見かけるようになり、

精神科医療への敷居は、格段に低くなった。

 

その中には、金儲けのために、

病気とは言いがたいレベルの対象者にまで病名をつけ、

向精神薬をばんばん投与するトンデモナイ医師もいた。

(また、それを許す精神保健のシステムでもあった)

 

今、俺のところにくる、30、40代の対象者の中には、

適当な病名をつけられ、長年の向精神薬の投与により、

向精神薬依存になっていたり、

病名がついたことに甘えて、何もしないことを正当化し、

家族に必要以上の気遣いを要求したり、という人間が、けっこう多い。

 

家族のほうも、こころの病気を盾にされると、ただオロオロするばかりで、

「入院治療を受けろ」と強く言うこともできず、

かといって「働いて自立しろ」と家を追い出すこともできず、

10年20年が経ってしまった……そんなケースばかりだ。

 

子供のほうはといえば、社会との接点を失ったまま、不規則な生活を続け、

それがよけいに、こころのバランスを崩す要因になっているという悪循環だ。

 

そこまで放置した家族にも問題があるとはいえ、

こういった対象者や家族を助けるために、精神保健分野が努力をするのは、

過去の経緯から言っても、しごく当たり前のことだろ? と俺は思うのだ。

 

このような家族がごまんといて、殺傷事件にまで発展している以上、

この問題・対象者にスポットを当てた取り組み、システム、法整備等が

必要であることは、もはや明白なのである。

 

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