オオゴトにするタイミング③

昨日の続きである。

 

このブログを読んでくれているひとの中には、

精神疾患を理由とする、子供のひきこもりや家庭内暴力などとは、

まったく関係のない生活をしているひとも多いと思う。

 

そういうひとが、精神保健分野の制度やら法律やらの話を聞いても、

それほど興味もわかないかもしれない。

 

そもそもこの分野は、制度自体とても複雑だし、

ベールに包まれている部分も多い。

(マスコミの記者でさえ、よく分かっていないことが多いのだ!)

 

人間の“こころ”を扱う分野なのに、

どうしてこんなに小難しく複雑な制度なのかと、いつも思う。

 

俺も、なるべく現状を分かりやすく伝えようと思うのだが、

説明しなければならないことが多くて、文章も長くなってしまう。

 

それでも俺がこうして繰り返し実態をブログに書くのは、

今、家庭内で起きているこの問題は、

決して他人事ではない、と思うからだ。

 

考えてもみてほしい。

 

昨日一昨日の記事で説明した事例の対象者は、おもに30~40代だ。

今、彼らの生活を支えているのは、年老いた両親(だいたい60~70代)で、

どちらかがすでに亡くなっているケースもある。

 

多くの親が、「老後のために」と貯めた資産で、子供の生活をまかなっている。

年金まで子供に搾取されている親がいる一方で、

「持ち家があるし、不動産などの資産もあるから、

このまま子供が働かなくても、食べていけるくらいのお金はあります」

などと言う親も、意外と多い。

 

本当に、子供が一生、遊んで暮らせるような潤沢な財産があるなら、

他人が口出しすることではないのだろう。

 

だけどよくよく話を聞いてみると、

子供が死ぬまで食べていけるほどの金額ではないことのほうが

圧倒的に多い。

 

持ち家があると言ったって、この先何十年と住んだ場合には、

メンテナンスにけっこうな金額がかかってくる。

 

不動産などの資産にしても、先々まで価値が変わらないとは、限らない。

実際に俺は、親が、「子供の生活の糧に」と考えていた不動産を、

いざ売りに出したところ、二束三文にしかならなかったケースを知っている。

 

やっかいなのは、そういう家庭に限って、

子供にそこそこ裕福な暮らしをさせてしまっていて、

金があるように見せてしまっていることだ。

 

子供は完全にそれを当てにしているため、

「病気を治して社会復帰しなければ」という気力にも結びつかない。

 

しかし、順番から考えても、親のほうが先に亡くなるのだ。

このように親に依存して、長い年月を生きてきてしまった彼らが、

親を失ったとき、どうなるか。

 

生活の糧を得るためとはいえ、

いきなり社会に出て働くことが、できるだろうか。

 

他の子供(兄弟姉妹)を当てにしたところで、

兄弟姉妹は、親ほど一生懸命に面倒はみてくれない。

 

最悪、生活保護などの福祉で……、と考えているのかもしれないが、

平成一八年度「こころの健康についての疫学調査に関する研究」によると、

日本には、推計二十六万世帯のひきこもりがいるとされている。

 

別の調査では、自分の趣味や用事には外出できる、「狭義のひきこもり」も含めると、

その人数は推計七十万人に登るというデータもある。

実際の数字は、おそらく政府も把握できていないのではないかと思う。

 

皆が皆、ひきこもりのまま人生を歩むとは限らないが、

多くの「働くことのできないひとたち」を、この先、

生活保護などの福祉で支えることが、果たして可能だろうか、と思うのだ。

 

セーフティーネットだ何だといくら叫んだって、

国にお金がなければ、どうしようもないのである。

 

日本の抱える莫大な借金、子育て支援や介護にすら予算がまわらない現状、

それらを見たときには、「誰かが何とかしてくれる」という考えは、

非常に甘いと言わざるをえないだろう。

 

俺みたいな人間が介入すると、ほとんどの人間が、

「家庭の問題であり、他人には迷惑かけていないんだから、放っといてくれ」

「自分の人生なんだから、何をしたっていいじゃないか」などと、言う。

 

しかし本当にそうだろうか。

 

親が亡くなったあと、親族にも見捨てられて、

独居の生活になれば、精神状態が悪化することも考えられる。

その結果、たとえば家をゴミ屋敷にしてしまったり、

近隣住民への迷惑行為をしてしまったり、ということだって、起こりうる。

 

存在さえ知られないまま、孤独死を迎えることだってありえる。

 

周囲から疎まれ、誰にも助けを求められず、

そんな最後を迎えることになっても、本当にいいのか?

 

俺のところに来る相談で言えば、60~70代の親世代は、

最近になってようやく「自分たちが死ぬ前に何とかしなければ」

と、重い腰をあげはじめている。

 

だからこそ俺は、この五年、十年が勝負だと思っている。

 

厚労省も「ひきこもり対策推進事業」なるものを行っている。

自宅に来て、本人に声をかけてくれるなどの訪問事業も、

以前よりは盛んになっているようだ。

 

しかし中には、声をかけられても、

かたくなに部屋のドアを開けない対象者もいるだろう。

 

俺のところに来るのは、そういう難易度の高い依頼なので、

俺は俺なりのやり方で、なんとかドアをこじ開けていきたい。

 

そして、医療と連携した社会復帰の受け皿を作れるよう、

これからも声をあげていくつもりだ。

 

(関連記事)

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オオゴトにするタイミング②