なぜと言われたら…
「なぜ、このような仕事をしているのですか」
「自分だったら、とてもできないし、やりたくないです」
今までに、たくさんのひとから言われてきた言葉だ。
なぜか? 俺もときどき考えるのだが、
生きる意味など死んでみるまで分からないように、
自分のやっていることに、いちいち、
明確な答えなど見いだせるわけもないのだ。
ただ一つ言えることがあるとすれば、
ひとが良くなることは、純粋に嬉しい。
ちなみに、俺の「良くなる」ってのは、
えらくなるとか、出世するとかってことではなく、
「人間として生きているかどうか」である。
最近も、嬉しいことが三つばかりあった。
一 先日、俺が出演したテレビ放映を見て、
問い合わせの電話があったひとから、御礼を言われた!
その相談者は、家族が精神疾患を患い、
過去に治療中断の末、長年、自室に引きこもっているという。
病状は年々悪化し、部屋の中で排尿までしてしまうような状況だったが、
専門機関はなかなか動いてくれない、という相談だった。
移送業務を案内したが、遠方ということで費用の捻出も難しいという。
ならば、諦めずに行政や医療機関と交渉してみるよう
うちのスタッフがアドバイスをした。
それで再度、関係各所に交渉に行って粘ったところ、
自宅に来て本人にも会ってくれて、こりゃあ緊急事態だということになり、
入院治療に結びつけられたという。
その後、この相談者から
「そちらのテレビを観たからこそ、もう一度頑張って、
本人を医療につなげようという気持ちになれた。
保健所や病院に対して、何とか治療に結びつけたいと、強引に頼むこともできた。
何より本人のために、本当に良かった。ありがとうございました」
という御礼の言葉があったそうだ。
こういうことがあると、テレビ取材を受けた甲斐もあったな、と思える。
二 かつて面倒をみた若い奴が、年末の挨拶に来た!
過去にトラブルを抱えて路頭に迷っていたところを、
縁もあって、助けた若い奴がいるのだが、
ひさしぶりに本気塾に、挨拶に来た。
俺は年末年始も仕事なので、直接会えず、
スタッフに頼んで、写メを送ってもらった。
肌つやも良くなり、憑きものの落ちたような、いい笑顔をしていた。
こいつはもともと、多少の学歴があることを鼻にかけ、
調子をこきまくっていたところ、
とんでもないトラブルに巻き込まれたのだ。
それが今では、寝る間も惜しんで、肉体労働に励んでいるらしく、
身体は肉一枚分くらい厚くなっていて、
アカギレだらけの手をしていたそうだ。
俺も肉体労働の経験があるからよく分かるが、
それが、真面目に真剣に働いている人間の手だ。
嬉しかった。
三 以前、携わった患者さんが、元気に餅をついていた!
この患者さんも、精神疾患を患っていながら、治療を中断、
俺が本人に会ったときには、何年も入浴をせず、
食事もまともにとっておらず、まさに命の危機にあった。
「なんとか本人に、人間らしい暮らしをしてほしい」
という家族からの依頼で俺は、入院治療への説得移送から
グループホーム入所にまで携わってきた。
その患者さんが、グループホームの餅つき大会に参加したという。
施設の方が、わざわざ動画を送ってくれたのだ。
杵を持つ体力すらなかった彼が、
男らしく元気に餅をついている姿を見て、
胸がジーンと熱くなった。
人生は長い。
どのひとも皆、この先もいろんなことがあるだろうが、
人間らしく、ひとを思いやることを忘れず、
一分一秒を過ごそうと、改めて思った。