自分のものじゃあ、ないのにね

俺は子供の頃、お袋からよくこんなことを聞かされて育った。

 

「他人のものや、他人から与えられたものを鼻にかけて

調子に乗っている奴は、いつか必ず落ちていく」

 

俺のお袋は、テレビに出てくる芸能人だけでなく、

自分の身内や友人知人の中に、そういうのがいると、

「たけし、よう見とき」と言って教えてくれた。

 

しかもお袋は「ああいうのは、落ちるときには自分だけじゃなくて

他人の足までひっぱって、落ちていくんぞ」とも言っていた。

 

すると本当に、親の七光りで調子に乗っていたり、

勤務先の大企業を傘に威張ったりしていた奴らが、

何年か後には見る影もなくなっていて、

しかも周りの家族親族や、会社の人間、友人知人をことごとく

道連れにして、落ちていた。

 

俺は幼心に、恐ろしいなと思った。

 

しかし実は、家族の問題を扱う仕事では、

こういう光景を嫌と言うほど目にする。

 

親の七光りもそうだし、

夫(妻)の肩書きや我が子の学歴を、

まるで自分が努力した証のように鼻にかけているひとがいる。

もっとえぐいのになると、相手の資産や収入を

夫(妻)や親、子だから……という理由で、操作して奪い取っていくひとがいる。

 

もちろん、そこにお互いの同意や感謝・尊敬の念といった

人間らしいこころがあるなら、まだいいのだけれど、

えぐいことをしているひとに限って、相手の気持ちもお構いなしに、

「家族なんだから、当たり前」と、家庭内でも威張りまくっている。

 

俺のお袋だったら、「自分のものじゃあ、ないのにねえ」と笑い飛ばすだろう。

 

実際、俺のところに相談にくる家族は、その時点で

家族ごと問題に巻き込まれ、困っている。

すでに結果が出ているのだ。

ただし、問題行動を起こしているのは子供でも、

そもそも巻き込んだのは親のほうだろう、と、俺はいつも思う。

 

ちなみに俺のお袋は、「だから、最初から落ちておけばいいんよ」とも言っていた。

とくに若いうちに、自分で自分を落とすところからスタートしておけば

つまらん見栄など張ってもしゃーない、ということがよく分かるし、

一生懸命頑張るしかない状況に追い込まれ、精神力も忍耐力も鍛えられる。

 

それから、こうも言っていた。

「上がるのは、どうせ自分の力だけでは上がれないんだから、

まずはひと様を一生懸命、下から支えて上げることを考えなさい」

「相手がちゃんとしたひとなら、自分でも努力をして、上がっていく。

支えていたものが軽くなれば、あんたも上がることができる」

 

我が親ながら、なかなか核心を突いたことを言っているな。

 

たしかに、俺が今までに支えてきた(というとちょっとおこがましいが)中にも、

今では俺の強力な助っ人になってくれているひとが、少なからずいる。

そういうひととの関係では、互いにリスペクトや感謝を忘れることはないから、

利用する、されるだけの関係では終わらないし、一緒に成長していける。

俺にとっては、それこそが人間関係の醍醐味なのだ。