現場はハードだ

悲惨な事件が起こるたびに、

「専門家は何をやっていたんだ!」と言う声があがる。

現実に起きていることを見たときには、

賛否両論巻き起こるのも当然だし、

議論が活発化するのは、いいことだと思う。

 

でもひとつ、「言うは易く行うは難し」

ということを忘れてはならない。

 

俺は現場の最前線に立っている身として、

ハードな案件が多すぎることを、身をもって感じている。

当事者である家族がどう感じているのかは知らないが、

俺からすると「命ぎりぎり」「事件一歩手前」という案件が

本当に、本当に、多い。

 

もう、学問だけ、机の上の勉強だけ……

そういった知識だけでは太刀打ちできないようなことが、

それこそ表面的には「一般」の家庭の中で、起きているのだ。

 

もしかしたら、「うちは普通」と思っているあなたの家族、

あなたの親や兄弟や子供だって、何かしらの火種を

抱えているのかもしれない……とすら思う。

 

ネット上では、匿名を良いことに言いたい放題、

即席の「批評家」は、増える一方だ。

しかしもっともらしく批評をする前に、

自分の足下を見るべきでは? と思うこともある。

 

これは別に、最近の潮流でもなんでもない。

俺が警備員(ガードマン)をやっていた20代の頃にも、同じことはあった。

 

たとえば住宅街で工事をしていると、必ずと言っていいほど、

近隣の家からおっさんが出てくる。そして

「そこは、もうちょっとこうしたほうがいい」

「こんなペースでは、工事に遅れが出る」

などと、説教やら文句やらを言うのだ。

 

その姿、口ぶりは、もっともらしく自信にあふれていて、

俺は「即席の現場監督だな!」などと、思ったものだ。

 

これが、一日中酒の匂いでも放っているような、

「いかにも」なおっさんだったら、何とも思わなかった。

でもどのおっさんも、ご立派な家から出てきて、

身ぎれいな格好をして、ごもっともなことを口にした。

 

そういうおっさんほど、最後に何をするかというと、

現場の安全コーンやロープを乗り越え、

掘削中の大きな穴をのぞき込んだり、稼働中の機械に近づいたり、

ヘタすれば命を落とすような振るまいを、平気でするのだ。

 

「知識はあっても、現場感覚はねーんだな!」

というのが、俺の率直な感想だった。

そしてどの現場に行っても、そういうおっさんは必ず、出現した。

 

「みんな専門家ぶりたいんだなあ!」と、しみじみ思った

 

何度も書いてきたことだけど、俺が学生のときは

「暗記さえすればいい学校にいけて、資格さえもてば(専門家になれば)、一生安泰」

という教育がまかり通っていた。

その教育はとどのつまり、『暗記したことを、専門家の名のもと、

そのままクライアントにたれ流せば、金をもらえる』

というものだったように思う。

つまりは、『暗記=金』という考え方の人間を増産したにすぎない。

 

そして今になって、俺たちが暗記してきた答えでは

とうてい解決できない問題が、頻発している。

 

川崎の事件でも、識者やコメンテーターたちは、

子供から大人へのSOSがなかったことについて、

「大人がSOSに気づくべきだった」と、もっともらしく述べているが、

それもある意味、マニュアル的な答えでしかない。

 

もちろん、大人が異変に気づくのは絶対条件ではあるのだが、

もっと根本的なことを考えたときには、

被害者の少年、その友達、クラスメイト……

もしかしたら加害者側の不良グループの少年たちにとっても、

「万が一のときに、このひとに相談すれば、絶対に何とかしてくれる」

という信頼に値する大人が、誰一人として、いなかった。

 

子供の力関係、緊急度、少年という身分に隠された危険、

それらに対する現場感覚を持ち、なおかつ対応のとれる

……つまりは現実対応できる(と子供に認知されている)大人が、

いなかったのである。

もちろんそれは、俺も含めてである。

 

表面的にもっともらしいことを言う大人は、くさるほどいる。

しかし、本当にハードな問題を解決しようとするときには、

そんなマニュアルじみた綺麗事など、何の役にも立たない。

 

だから俺は、100人いたら99人がドン引きするようなやり方で、

問題を解決してやろうと、いつも考える。

依頼してきた家族までがドン引きすることもあるが、

それくらいのアイデア、覚悟、準備……といったものがないと

マグマのような問題を抱えた当事者とは、向き合えないのだ。

 

専門家ぶって、他人を批難したり批判したりする前に、

そこんところを、よく考えなければいけないな。

 

激ヤバなピンチのときに、腹をくくって考えに考えて、

100人中99人がドン引きするような解決策を繰り出せたとき、

子供は「うちの父ちゃん(母ちゃん)には、かなわない!」と思うはずだ。