母親教①
俺は約20年間、いろんな家族の問題を扱ってきた。
相談だけのケースも含めて振り返ってみると、
対象者の割合としては、依頼時に「30~40代の男性」が、圧倒的に多い。
多くは、アルコールや薬物への依存も含め精神疾患、
あるいは精神疾患の「疑い」があり、
なおかつ家庭内暴力やひきこもり、金の無心、近隣トラブル……
といった問題行動を繰り返している。
上記のような「30~40代の男性」のケースを振り返ってみると
ある一つの共通点が浮かびあがる。
それは、母親に対して、暴力や暴言を繰り返している反面、
強烈な依存がみられることである。
最近は、このパターンに陥る母親の特徴も、見えてきた。
以下に羅列する。
・仕事を持たず、専業主婦
・夫のほうが高学歴、家柄が良いなど、コンプレックスや不満を抱えている
・夫の稼ぎが良く、家計の管理を任され、自由に(または隠れて)その金を使える
・夫との仲が悪い、悪いとまではいかなくてもコミュニケーションがとれていない
・見栄や世間体が気になってしかたない
これはあくまでも俺のところに相談にきた家族における特徴ではあるのだが、
これらの要素がある母親は、子供(とくに息子)を、
自分の都合の良いように扱う傾向にある。
自分(母親)の虚栄心を満たしてくれて、
見栄や世間体を飾ってくれて、
夫の代わりに気持ちを受け止めてくれて、
いずれ夫を見返せるくらい優秀な人物になってくれる。
そういうふうに、子供を育てようとするのだ。
俺には、母親自身の欲求が極限まで肥大した、超即物的な子育てに思える。
子供は、幼いうちは、母親の要求に応えようと従順かつ必死だが、
成長するにつれ、親の期待に応えられない、望み通りになれないことも出てくる。
即物的に育てられた子供ほど、人間関係や就職などでつまづいたときに、
「ええ加減」で立ち回ったり、立ち直ったりする力を持たないから、
転がるように状況は悪化し、社会のレールからはずれてしまう。
そうなればますます、家計を握っている母親に執着する。
母親なしでは生きていけない、と分かっているから、
母親を「教祖様」のように、絶対視せざるを得なくなる。
ある男性は、母親に暴力を振るって何千万という金を無心していた。
最後は、母親に借金までさせて金を作らせておきながら、
俺が介入して医療につなぎ、もう親には会えないことを伝えると
「ママのフレンチトーストが食べたい」と涙ぐんだ。
別の男性は、母親を連日連夜、暴言で追い込み、家から閉め出していた。
ところが、俺が介入して、「母親にもおかしいところがあるのだから、
親から離れない限りあなたの人生はよくならないよ」と指摘すると、
「母を悪く言わないでください」と泣きだした。
一見矛盾しているように見える彼らの言動だが、
まさにこれが、母親からの洗脳の証である。
分かりやすく言ってしまうと、彼らは母親の即物的な子育てにより、
「愛情」=「金」、「人生」=「金」という刷り込みをされている。
彼らにとって、母親との関係を断ち切ることは、イコール「金」を手放すことなのだ。
だから関係を断ち切られそうになったとたん、今度は、
表面的な情にうったえるやり方で、母親との接触=「金」を求めようとする。
彼らを真の自立に導くためには、この洗脳を解かなければならない。
しかし、年齢が高くなるほど難しく、無理だな、と思うケースさえある。
その場合は、どうやって親との距離を保つかを、考えなければならない。
その一方で、当の「教祖様」である母親は、
俺が子供を家から連れ出した、その瞬間から、笑顔である。
自分の思い通りに育たなかった子供は、もういらないってわけだ。
じゃあ、母親だけが悪いのか、父親は悪くないのか?
という意見もあるだろう。
もちろん、どうしようもない親父もいるし、
100%父親が悪い、という家庭もある。
だがやはり、子供が母親から受ける影響の大きさは、はかりしれない。
これが、今のところの俺の結論なのである。
この「母親教」の構造については奥が深すぎるので、
今後も考察を重ね、機会をみて発表するつもりだ。