勃起する超高層ビル

俺は小倉(現北九州市)で生まれ育ったのだが、ガキの頃は、夏休みのたびに東京に住む叔父の家に、一人で遊びに行っていた。

 

当時、新宿には、超高層ビルがぽこぽこと建ちはじめていて、俺はそれを、テレビでよく見ていた。ニュース番組で、福岡から東京のニュースに切り替わる時に、必ず新宿の高層ビルのシーンが流れていたんだよ。

だから東京に遊びに行って、初めて実物を目にした時には、嬉しかったし、驚いた。想像以上にでっかい建物が、どうだ!とばかりにズドンとそびえ立っててさ。

俺は思わず、「でっけえちんこが起っとるのぉぉぉ!!」って、叫んでしまったよ

俺の目には、空に向かってちんこが勃起しているようにしか見えなかった。

 

俺は高校を卒業後、上京した。身分は予備校生だったけど、「社会勉強だ!」とばかりに夜の街に繰り出すようになった。銀座なんかにも行ってみたけど、やっぱり新宿が一番おもしれーなと思ったよ。

西新宿に、新しい東京都庁のビルが建つようになった頃も、俺はやつらを眺めながら、「おうおう、今日も元気に勃起しとるのう!」なんて思ってた。

 

あの頃はまだ、超高層ビルといえば、都会の象徴だった。その証拠に、新宿っていう街はなんでもござれで、遊びも仕事も、金やら性やらの欲望も、犯罪も、ありったけ溢れていた。ある種、特別なものだったんだよね。

それがどうだ!! あっという間に、地方にも田舎の駅前にも、日本中のいたるところに、超高層のタワーマンションなんかが起ちまくっているじゃないか!

俺には、今や日本中が勃起しているように見えてならない。

これじゃあ、性犯罪やストーカー、DVなんかが増えるのも当たり前だよなあと、俺は思う。

 

「精神障害者移送サービス」という仕事をはじめて、俺は、心を病んでしまった人にたくさん会うようになった。部屋に踏み込んだら、相手が凶器を持っていたってこともけっこうあって、あるとき俺は、「刃物はペニスの象徴なんだ」ってことに気づいた。ほとんどの場合、男は刃物をこちらに向け、女は刃物を自分に向けていたからだ。

そしてそういうケースほど、当人は性の問題を抱えていた。それに気づいたときから、俺の頭の中では、「刃渡りの長い鋭利な刃物=勃起したペニス=高層ビル」っていう図式が出来上がっている。だから高層ビルが建てば建つほど、俺は勃起したちんこを思い浮かべ、そして鋭利な刃物を思い浮かべる。

 

スカイツリーを見て「いよいよヤバいなあ!」なんて思ってんのは、俺くらいかもね。あれだけのものをおったてないとバランスがとれないところまで、この国はきてる。

ほんとキリがないぜ。

20131103