母親自殺の巻き添えか? 8歳の男児重傷 本人は重体

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母親自殺の巻き添えか? 8歳の男児重傷 本人は重体

 

親の自殺に子供が巻き添えになったのか-。

 

2日午前4時半ごろ、東京都日野市新町の住宅2階寝室で、小学2年の男児(8)が腹や胸など数十カ所を刺されて倒れているのを、父親(53)が見つけた。男児は重傷。

 

そばで男児の母親(46)も腹を負傷して倒れており、意識不明の重体。警視庁日野署は、母親が男児を刺して自殺を図ったとみて調べている。

 

近隣住民によると、この一家は10年ほど前に現住所に引っ越してきたという。夫婦は1人息子をかわいがっていたが、母親はものすごい勢いで男児を怒鳴りつけることがあったという。63歳主婦は「1~2カ月に1回ぐらいは、すごい怒り方をしているのを聞いた。小学校からの下校時には迎えに行って、周りの子供と遊ばせないとか、神経質な人だった」と振り返った。

 

母親は周辺の雑音に敏感で、テレビや風呂場の音、飼い犬の鳴き声がうるさいと、その度に苦情を訴える手紙を近所の郵便受けに入れていたという。父親は穏やかな性格で、男児と一緒に車を掃除したり、プールに泳ぎに行ったりしていたという。

 

近隣に住む62歳主婦は「昨日(1日)の夜、娘が仕事からの帰宅途中、子供が『やだ! やだ!』と大声でわめくのが聞こえたと言っていた。もしかしたら事件の前兆だったのかもしれない」と話した。

 

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20151002-00000138-nksports-soci

 

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家族(親子)の問題は、密室化してしまって、

外からは分かりにくい側面があるけれども、

事件に至るほど問題が肥大化しているケースに限っては、

なんらかの予兆(サイン)が出ていることが多い。

 

今回の事件で俺が気になったのは、

近隣住民宅に投函していたという、手紙の内容である。

ここでは騒音に関する苦情としか触れていないが

果たして本当にそれだけだっただろうか。

 

俺が依頼を受けて携わったり、相談を受けたりする中には、

近隣住民宅へ「投げ文」を行っているケースが、多々ある。

 

その内容を読んでみると、近隣住民には身に覚えのないことや、

意味不明な話が繰り返し書かれていたり、

同じ内容の手紙を何十通と投函していたりと、

明らかにおかしいな? と思われる言動がある。

 

「セクハラされている」「自宅を覗かれている」というような

性的言及が行われていることも、よくある。

 

今は、手紙ではなく、友人知人にこういった内容のメールを

手当たり次第、送りつけていることもある。

 

とくに40代以降の女性に多くみられる現象で、

医療につなげると「(遅発性)統合失調症」と診断されることが多かった。

 

ようするにこの投げ文は、精神疾患による幻覚や妄想、

被害妄想が高じての言動だったのである。

 

今回の事件がどうだったかは分からないが、

別のニュースでは母親について、

 

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父親は「1週間ほど前から妻が『疲れた、死にたい』と話しており、精神的に不安定な状態だった」と話しているという。

 

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ともあった。

 

おそらく父親は、母親の抱える問題について、多少なりとも把握はしていたのだろうが、

近所に投げ文をしていることまで、耳に入っていたかどうか。

 

うちへの相談でもよくあることだが、

父親(夫)は、日中、外に働きに出ているため、

母親(妻)が子供に対してどんな言動をとっているか、

近隣住民など第三者にどのような行為をしているか、

といった細かなところまでは、把握できていない。

 

この事件の父親も、なんとかしなければとは不安を抱きつつも、

早急に医療的介入が必要なレベルとまでは、思っていなかったのかもしれない。

 

投げ文をされた近隣住民からしてみれば、

「迷惑行為だ」「怖い」という印象を抱くだろうが、

俺からするとこれは、対象者からのSOSである。

 

手紙の内容次第では、精神科医が病気の有無を判断するための

重要なエビデンスにもなりえる。

 

近隣住民の立場としては、

まずは当事者の家族に報告や声かけをすることが大事だが、

それでも埒があかない(家族が耳を貸さないなど)のであれば、

精神保健福祉法第22条の「一般申請」を利用して、

保健所や医療機関の介入を得るしかない。

 

ちなみにこの一般申請は、申請をしたからといって、

即座に対象者が入院させられるような制度ではない。

 

まずは第三者からの訴えに基づき、自宅訪問や調査を行い、

必要に応じて、受診勧奨など医療的介入をはかるものである。

 

今回の事件でも、保健所職員など専門家の介入があれば、

母親の精神状態はどうか、医療的介入の必要がないか、

判断ができたはずである。

 

仮に母親が、精神疾患ではなかったとしても、

サポートが必要な家庭であると把握してもらえれば、

学校と連携をとるなり、児童相談所が動くなり、

なんらかの見守りができたのではないかと思う。

 

とくに、親が精神的な病気を抱えていて、子供がまだ幼い場合、

親から子に与える影響は、決して小さいものではない。

 

もちろん、きちんと医療につながることができて、

症状も安定しているようなケースは別だが、

未治療のまま放置してきているような場合、

幻覚や妄想、あるいは激しい感情の起伏などで

子供を精神的、肉体的に傷つけてしまうこともある。

 

幼い子供には、母親の異変は感じ取れても

それが病気によるものかどうかなど、分かるはずもない。

 

俺のところにも、親族(別居している祖父母)や、近隣住民からの

「親が精神疾患で、子供を育児放棄(虐待)しているかもしれない」

という相談は、けっこうある。

 

事件に至らないまでも、心理的虐待ともいえるような

事態に陥っているケースは、かなりの数、あるのではないか。

 

親も、病気が理由でそのようになっているのであり、

子供を傷つけたくてやっているわけではないことが、ますます哀しい。

 

何度も言っていることだが、今は、祖父母や親族との縁も薄くなっていて

家族が孤立しやすい状況にある。

父親が忙しくて家庭を顧みることができていないだけでなく、

そもそも親が離婚していて、シングルの家庭だって多い。

 

そういう家族構成が増えていることを思えば、

罪のない子供たちを守るためには、第三者が速やかに介入できる仕組みをつくること、

これしかないのである。

 

拙著では、精神疾患を理由とした近隣住民のトラブルや

「一般申請」についても詳しく書いてある。

精神疾患に対する正しい知識や現状が周知されることにより、

家族や親族ではなくても、命を助けられるはずだ。

そういう世の中にしなければならない。

 

表紙