究極の街、究極の闇
(以下引用:産経新聞 5月1日)
生卵、皿、ミカンが空から次々降ってくる…マンション街・武蔵小杉悩ます悪質いたずら 一体誰?
生卵にペットボトル、皿、果てはミカンまで…。都心へのアクセスの良さで人気上昇中の武蔵小杉駅周辺(川崎市中原区)で、タワーマンションからさまざまな物が落下し、通行人や近隣住民を恐怖に陥れている。神奈川県警中原署は、軽犯罪法違反(危険物投注)で捜査しているが、ほとんどの事案が未解決のまま。「住みやすい街ランキング」ではトップ5に入る“憧れの街”に今、何が起きているのか。(那須慎一)
■上を見上げると
「時々ハッと思い出し、上を見上げることがあります。やっぱり怖いですよね」
皿やペットボトルなどが投げ落とされたとされる47階建てタワーマンション(高さ約170メートル)に住む主婦(60)は、こう嘆く。
落下物が相次いで発見されたマンション前の歩道。平日の昼間歩いてみると、赤ん坊を連れた母親や買い物に向かう主婦、サラリーマンらが頻繁に行き交う。朝の通勤通学の時間帯には人であふれ、ごったがえすという。
このマンションは、JR横須賀線と南武線、さらに東急東横線が乗り入れる武蔵小杉駅にほど近い。周辺にも50階近いタワーマンションが立ち並んでおり、歩行者が落下物に気付いて避けるのは至難の業だ。
■再開発が進んで
同駅周辺はもともと、NECなど大手企業の事業所や関連企業の工場が集積していたが、閉鎖や移転などが相次ぎ、ここ10年ほどで再開発が一気に加速。都心へのアクセスの良さも相まって、タワーマンションが林立した。
「リクルート住まいカンパニー」(東京)の「2016年版みんなが選んだ住みたい街ランキング」の関東版によると、武蔵小杉は東京・恵比寿や横浜などに次ぐ4位に輝き、平成24年の15位から大きく躍進した。
“ハイソ”な街へと変貌した武蔵小杉に住むセレブな主婦層は「ムサコマダム」と呼ばれ、街中のカフェでは優雅な雰囲気を漂わせながら、くつろぐ姿が見られる。
会社役員の男性(40)は「都心部よりもゆったりとした雰囲気が流れており、子育て環境も充実している」と住環境の良さを強調する。
■止まらぬ落下物
最初に落下物が確認されたのは、昨年9月24日のこと。皿が落ちてきたのに始まり、同27日には液体の入ったペットボトルが落下した。
中原署によると、「パーン」と破裂音がした後、ペットボトルの破片と黄色い液体が地面に広がっているのが見つかったという。
同10、11月には、周辺の別のマンションから、合計30個もの生卵が次々に投げつけれ、一部が通行人の女性に当たる事件が発生。周辺の聞き込み捜査から、同マンションに住む慶応大の男子学生=当時(22)=が浮上し、張り込んでいた警察官の目の前で生卵が落下したことから、同11月に軽犯罪法違反で書類送検された。
「就職活動が失敗し、むしゃくしゃしていた」と身勝手な動機を供述した大学生だったが、その他の落下物については関与していないことが捜査で判明し、「これで一件落着」といったんは安堵(あんど)した住民は恐怖におびえ続けることになった。今年に入ってからは住民らの心配をあざ笑うかのように、事態はさらにエスカレートした。
2月12日には、目覚まし時計、3月4日にはペットのケージの金網、同12日はミカンが落下した。これらは、皿やペットボトルが落下した同じマンションからとみられ、落下物事案は計5件となっている。
■捜査に「特有の障害」
落下地点はほぼ同じにも関わらず、事案が解決に至らない現状に住民はいらだちを募らせるが、同署によるとタワーマンションの街ならではの障害が立ちはだかっているという。
「マンションのセキュリティーが厳しく、聞き取りするにも理事会や管理組合の許可が必要で、なかなかはかどらない。600戸を超える世帯をしらみつぶしに捜査するのは難しい」
捜査関係者は、歯がゆそうにこう語る。落下物への注意を促すビラを各戸のポストに投函(とうかん)するのがせいぜいだという。
周辺に設置されている防犯カメラにも期待がかかったが、上空を映し出すようには設定されておらず、落下物がどこからのものか特定作業は進んでいない。
■ブランドに傷も
周辺の不動産業者は「『本当に大丈夫か』と不安に思われるお客さんが多くいた」と声を潜め、別の同業者も「落下物で悪い噂が広がると、せっかく高まった街のブランドに傷をつけかねない」と懸念を示す。
幸いにも現時点では落下物による死傷者は出ていないものの、万が一歩行者などを直撃すれば死に至ることも十分考えられ、先の業者は「悪質ないたずらでは済まされない」と憤る。
事件と事故の両面からの捜査が難航する中、住民が安全・安心を取り戻せる日は見通せていない。
俺が最近、仕事でとくに感じていることを、象徴する事件だ。
これまでも何度も書いてきたけど、対象者が、ひきこもりならぬ「たてこもり」状態になり、
親を追い出して自宅を占拠している。そういう相談は、枚挙に暇がない。
その中には、中層~高層マンションに住んでいる家族もいる。
一軒家と違い、ハイクオリティのマンションほど、
セキュリティーが厳しく、事前の視察や調査が難しい。
オートロックだと、本人が応じてくれなければ、
マンション内に入ることさえ、できない。
上階からの物の投げ落としといった事案が起きたとき、
一般市民は皆「警察は何をしているんだ」と言うが、
記事中にあるように、捜査が難航するのは当然のことなのだ。
防犯といっても、上空に防犯カメラを設置することはできない。
犯人は、それをも見透かしているのだろう。
こうなったら当局は、ドローンを飛ばして終始監視し、
犯人を特定する以外、方法はないのではないか。
もちろん、この事案の犯人が、
精神疾患やひきこもりなどの問題を抱えているとは限らない。
だが、マトモな人間のやることではない。
もし、この事案が解決して犯人が逮捕されたとしても、
そこに住居がある限り、根本解決にはならないかもしれない。
記事中に、「マンションのセキュリティーが厳しく、
聞き取りするにも理事会や管理組合の許可が必要で、なかなかはかどらない。
600戸を超える世帯をしらみつぶしに捜査するのは難しい」とあるように、
調和のとれたコミュニティーもないのだ。
この件に限らず、高層マンションの問題点は最近になってようやく、
ニュースで出てくるようになった感がある。
たとえば、「高所平気症」。
高いところに住み慣れた子供が、高いところを怖いと思わなくなることだが、
俺は何年も前に、警笛を鳴らしている専門家がいると聞いたことがある。
ところが、大々的にニュースに出るようになったのは、ごく最近だ。
なぜならこれが表に出ちゃうと、幼児のいる家族は、
高層マンションなど買わなくなるからだ。
今になって、飛び降りる子供があまりに増えたことから、
情報として出さざるを得なくなったのだろう。
他にも、有事の際の「高層難民」や、「傾斜マンション」の問題。
傾斜マンションに関しては、「全棟を建て替える」という案が出ているようだが
何百戸もいる住民の中には、俺のクライアントになるような、
「子供が家を占拠していて、引越しも売却もできない」
という家族が、一組二組はいるんじゃないかと、俺はみている。
いつ実現するか分からない建て替えを待つくらいなら、
さっさと売却して、もっと安全なところに住む方が賢い。
これまでは流行により、都心に限らず高層マンション・巨大マンションが
ばんばん建てられてきたけど、ここから先は、人口は減少する一方だし、
住宅の価値も、見直しの時期に入るのではないかと思う。
「個」や「家族」の欲求に、究極といえるほど応えた街には、
その裏返しとして、究極の闇も同居するということだ。
こういうことを書くと、「すでに買って住んでいる人間に失礼だ!」
と怒られてしまうかもしれないが、
一昨日も書いたように、「変革」が大事だと俺は思う。
何かおかしいな、時代が変わっているな、嫌な感じだな。
そういう直感が働く生き方が、できているかどうか。
そして自分の感性を信じて、素早く行動にうつすことができるか。
その素直さこそが、生き延びるためのヒントではないか。
俺は、自分への戒めとしても、そう考えている。