起こるべくして起きてしまった 相模原障害者施設殺傷事件1
実は、日付が変わって今日が説得移送のXデーなので、ここ数日は現地入りし、準備に動いていた。それこそ、昨日未明に起きた相模原殺傷事件のような事件を、いつ起こしてもおかしくない、そんな対象者の案件だ。俺は家族からの依頼で、入院治療の説得だけでなく、将来的なサポートにも関わっていくことになる。
明日に備えてブログもしばらく休むつもりでいたのだが、相模原殺傷事件のことを気にしてコメントしてくれた方もいるので、俺の考えを、手短にであるが書いておこうと思う。
相模原殺傷事件の加害者は、事前に事件を予告していた。警察介入のもと措置入院となり、「大麻精神病」「妄想性障害」の診断名もついている。しかし、入院期間はたったの10日(2月22日~3月2日)。そして、今回の事件を起こした。その経緯は、以下のニュースに詳しいので引用しておく。
(以下引用:毎日新聞7月26日)
<相模原殺傷>事件予告発言、手紙の内容通り実行の可能性も
◇「妄想性障害」などの診断で2月には正式な措置入院
相模原市緑区千木良の知的障害者施設「津久井やまゆり園」の殺傷事件。植松聖容疑者(26)は今年2月、手紙を持参して東京都千代田区の衆院議長公邸を訪れていた。手紙には「障害者を抹殺することができる」などと記述。その後の神奈川県警や相模原市の聞き取りにも同様に殺傷事件を予告するような発言を繰り返していた。
植松容疑者は今年2月14日、衆院議長公邸に手紙を持参し、公邸職員らに受け取りを拒まれた。しかし翌15日も再び訪れ、正門前で座り込むなどしたため、警備の警察官と公邸側が相談して手紙を受け取った。
手紙は直筆で「私は障害者総勢470名を抹殺することができます」と始まり、事件が起きた津久井やまゆり園を含む2施設を「標的」と名指ししていた。「職員の少ない夜勤に決行致します」「職員は結束バンドで身動き、外部との連絡をとれなくします」「抹殺した後は自首します」とも書かれていた。事件はほぼ手紙の内容通りに実行された可能性がある。
一方、同園は2月18日、同容疑者が「重複障害者は生きていても意味がないので、安楽死にすればいい」などと話したことから県警に相談。県警が19日に同園で容疑者と面談すると、「大量殺害は日本国の指示があればいつでも実行する」と異常な発言をしたことから、精神保健福祉法に基づき病院への強制入院を決められる相模原市に通報した。
同市は同日、国の指定医の意見を聞いて緊急措置入院を決め、22日に2人の指定医が「大麻精神病」「妄想性障害」などと診断したため正式な措置入院とした。同日までに尿検査で大麻の陽性反応が出たが、指定医が「症状の改善が優先」などとして県警には通報しなかった。3月2日に医師が「他人に危害を加える恐れがなくなった」と診断したため市が退院させた。大麻取締法は「使用」についての罰則が定められていない。市は「警察への報告義務はなく、できる限りの対応はした」としている。
【水戸健一、大場弘行】
加害者は、「障害者を抹殺することができる」「安楽死にすればいい」などと差別的な宣言をしており、実際に手を下した。許しがたい行為であることは、言うまでもない。
だが俺からすると、今の精神保健にまつわる行政機関の職員、精神科医療従事者の多くは、この加害者の差別的な言動を批難したり、論じたりすることができるのか? と思う。
なぜなら今、主管行政である保健所(精神保健福祉センター)や精神科病院の多くは、このような自傷他害の恐れのある対象者について、対応困難なケースほど、継続的な介入や受け入れを拒んでいる。
家族や近隣住民から相談を受けて、その場の対応はしてくれても、本当の意味で、対象者や家族・第三者の「命」を守るような、医療的介入・支援はしてくれない。
彼らは「本人の意思」や「人権」を盾にするが、本音のところは、このような対象者に対しては、「関わりたくない」「逆恨みされたくない」「自分が悪者になりたくない」という思いがある。
そして国の法律(精神保健福祉法)や制度も、それを後押しするような動きにしか、なっていない。言葉を選ばずに言うと、この国の方針自体が、「対応困難な問題を抱える障害者は、事件でも起こしてください」「家族で殺しあってください」と、なってしまっているのだ。
俺は、2014年の改正精神保健福祉法の施行を鑑み、このような事件が大勃発してしまうことを危惧し、「子供を殺してください」という親たち』を執筆した。今回、俺のところにもいくつかのメディアから取材が来たが、そのような国(精神保健)の仕組み、方向性など何一つ理解していないので、『「子供を殺してください」という親たち』を読め、と言っておいた。
俺のところにくる、この手の危ない相談だけでも、かなりの数になる。今回の事件のように、周囲の人に殺害予告をしているような事例は、全国にたくさんあるはずだ。しかし当事者の家族ほど、大きな声を上げられずにいる。
このままでは、家族や周囲が危険を察知しながら、防げなかった無差別殺人事件、不条理な事件、弱者がターゲットにされる凶行は、ますます増えるだろう。今回の比ではないほどの大事件が起きる可能性さえ、非常に高いと思っている。そして、このような事件を防げないことが、きちんと治療を受け、社会参加している精神障害者の方々に対する無用な差別や偏見を、かえって助長してしまう。
本来なら防げるはずの事件を、見てみぬふりでいいのか。国会議員や各自治体の議員の方々、また厚労省や、各自治体の当該行政機関の方々には、俺の本を読んで、現実に即した対策を本気で考えてほしい。真剣に議論し、変えられるタイミングは、もう今しかない。
末筆ながら、亡くなられた多くの被害者の方々に、心からお悔やみ申し上げます。また、怪我をされた方々の一日も早い快復をお祈りいたします。
(10刷 6万6千部)