暗記人間

昨日の記事で俺は、「暗記力がある」=「頭がいい」っていう風潮に疑問を投げかけた。それをまざまざと俺に見せつけてくれた、T男(仮名)の話をしようと思う。

 

10年以上前、俺がトキワ警備という会社をやっていたときに、ホームページを作ろうと思って、知り合いからこのT男を紹介してもらった。T男は大学卒業後、自分でWEB作成の会社をやっていたんだ。

初めて会ったとき、T男は腰が低くて、悪い奴には見えなかった。信頼していた人の紹介ってこともあって、俺は仕事を依頼した。出来上がったホームページは、なんていうか、「フツー」だった。すごくカッコイイわけでもなく、でもまあ一応、形にはなってるっていう。けっこう高い請求書が来たけど、俺は素直に払った。今でこそ、ホームページやブログって素人でも簡単に作れるけど、当時はまだインターネットの走りの頃で、俺も相場を知らなかったんだ。

その後もT男からは、経費だなんだと料金を請求された。「今日中に払ってもらえないと、ウチも困るんですよ~」と泣きつかれて、現金と手土産を持って、T男の事務所に出向いたこともあった。T男は、俺の前ではペコペコしていたけど、あるとき、自分の従業員に対して、「これをやりたまえ!」って言いながら、仕事を投げつけるように渡しているのを見た。俺はそんとき初めて、「こいつ、なんかヤバイかも…」と思った。

 

結局、このT男には、なんだかんだとけっこうな金額を支払った。いい加減、俺もスタッフも「おかしいぞ」と思い始めて。そのうちに決定的な出来事が起こり、怒り狂った俺がT男の事務所に乗り込んだところ、T男の会社経営が詐欺まがいのめちゃくちゃなものであることが発覚した

それがバレたとたんT男は、「反省してる、人生やりなおしたい、助けてくれ」とか言って、俺にすがってきたんだな。本来なら、被害届を出してもおかしくないような出来事だったんだけど、俺もつい同情して、その後も長いことT男の面倒をみてしまった。

 

このT男っていうのが、高校は地方の進学校出身、某私立有名大学卒っていう経歴なんだよ。地元じゃ相当、ちやほやされたようなことを言ってたし、実際、大学時代がT男の人生のピークだったんだろうなと思う。

でもT男はその後、どんな仕事につかせても真面目にやらなかったし、どこにいっても、人をだまくらかして金をせしめるってことを繰り返した。

俺は、そんなT男がどうやってあの有名大学に合格したのか、聞いてみたことがある。そしたら、「とにかく暗記しかしなかった」って言うんだよな。それも、T男みたいな奴らが通う進学校や予備校には、「この参考書のこの部分を覚えればいい」っていう裏技が知れ渡っていて、その通りに、「とにかく丸暗記していた」って言うんだ。俺はその話を聞いたとき、なるほどなあと、妙に納得した。

 

T男には、自分で考えるって部分が、見事なまでに欠落していた。考えることと言ったら、どうやって不正をおかすか、人をだますか…ってことばかり。年を追うごとに惨めな人生になるのも、当然だよな。

それでも俺は、なんとかT男の暗記力を活かせないかと思ったりもした。暗記さえすれば取れる資格を探して、すすめたりね。でも悲しいかな、暗記力は年齢とともに劣化するんだ。スポーツ選手の身体能力と一緒だな。それに世の中には、T男なんかメじゃないくらい、もっとすごい暗記力の持ち主がいる。若くて、そういう暗記力をもった人には、どうしたってかなわない。

俺は十年以上、T男と付き合ってきて、最後はこう思った。だったら最初から、大学なんか行かなきゃよかったねって。高卒って肩書きだったら、もうちょっと人生に真剣になったかもしれない。肉体労働でもなんでも、選り好みせずに頑張ったかもしれない。他人さまに対して横柄な態度をとる、そんな人間にはならなかったかもしれない。

 

T男みたいな奴って、特別だと思うかな?でも俺は、大学名や状況は違えど、似たような生き方をしている人間を、10人は思い浮かべられる。

そういう奴は社会に出てからも、誰かが言ったこと、どこかに書いてあることを丸暗記して、べらべらべらべら他人に話す、それで仕事をした気になってるんだな。あともう一つは、とにかく他人の仕事、他人のやることを否定するだけの奴。俺からしたら、どっちも他人の仕事を邪魔してるようにしか見えないんだけど、本人は「あー、今日は相当、頭使ったなあ!」とか言ってるんだよ。

 

そんなんでいいのかな? って思うよね。

少なくとも、俺は嫌だな。