逃げるな!トボけるな!保健所!! 相模原障害者施設殺傷事件6

相模原の事件をきっかけにつくづく感じたことだが、世間一般の方々には、精神保健に関する主管行政が、保健所(あるいは精神保健福祉センター)であること自体、理解されておらず、その詳しい役割については、なおさらである。

たとえば警察であれば、「市民の命を守る」「地域の安全を守る」など、誰もが知っている、明確な役割・使命がある。だからこそ我々は、身の危険を感じるような出来事があったら、すぐに警察に通報や相談をする。

そして警察が事件や事故を防げなかったときには、理由の如何に関わらず、責任を追及され、メディアから叩かれもする。そこに明らかなミスがあれば、厳しい処分が下される。

俺からすると、保健所もまさに「市民の命を守る」「地域の安全を守る」などの役割を担っていると思うのだが、警察に比べて保健所は、その使命感、責任感があまりに軽い。

では、肝心の保健所は、自分たちの役割をどのように認識しているのだろうか。

相模原の事件を機に、俺はあらためて、保健所の職務に関する資料をいろいろと読み込んだ。その中で「地域精神保健福祉活動における保健所機能強化ガイドラインの作成 報告書」(厚生労働省 平成23年度障害者総合福祉推進事業)には、以下の図が掲載されている。

図4 精神障害の危機事象

ここには、「自殺」「虐待」「ひきこもり」「自傷・他害」「迷惑行為」が、精神障害者の危機事象として、対応を要する事案であると明記してある。ちなみに、「自殺」「虐待」「ひきこもり」「自傷・他害」「迷惑行為」は、俺が受ける家族の相談でも、ほぼ例外なく含まれる。

この図を見るだけでも、保健所の果たすべき役割や使命の大きさが分かるし、仕組み上は、対象者及び家族を支えられる構図になってもいる。それなのに、精神障害に起因する家族間の殺傷事件が相次ぎ、相模原のような凄惨な事件まで起きてしまったのは、なぜなのか。

同じ資料にある、もう一つの図を掲載する。

図5 保健所の課題と機能

精神保健に関する主管行政が保健所であることが、よく分かる図である。 中でも俺が驚愕するのは、真ん中下方にある「保健所の強み」という表記の部分だ。

  1. 権限
  2. ネットワーク
  3. データ

なかなかすごいことが書いてあるな。なおかつここに大きな予算が付くのだから、都議会もビックリの超絶!伏魔殿である。

俺の現場脳でこれを読むと、相模原の事件などは【保健所が「権限」を持っていたにもかかわらず、警察・行政との「ネットワーク(連携など)」を怠り、むしろ権限を振りかざして「データ」を独り占めした】結果、起きたということではないか!? と思う。

相模原の事件に関する報道では、専門家による見解として、「そもそも、措置入院に結びつけた警察の対応がおかしい」というものが散見されたが、それはこのガイドラインを無視した素人然の見解であり、欺瞞に満ちた、責任逃れの意見でしかない。

とはいえ、保健所の携わる業務は、精神保健のみではない。災害医療、感染症、その他、生活衛生に関する業務も担っている。また、先日も取り上げた「保健所精神保健業務における危機介入手引」(平成18年度地域保健総合推進事業「精神保健対策の在り方に関する研究」)においては、精神障害者の危機介入に関して、

「このように危機介入に関する相談等は、(中略)精神保健福祉に関する相談支援業務のうちで最も複雑で、対応に困難が伴うことが多く、より専門性の高い対応能力が求められる」

とまで、言及している。

ところが現場職員は、警察のように日々、危機介入に対する専門的な訓練を受けているわけではない。そもそも、「そんな危ない現場に出るつもりで、この職に就いたんじゃない!」という声が聞こえてきそうだ。結果として、家族が管轄の保健所に相談に訪れても、「本人を連れて来ないと対応できない」「何かあったら110番通報を」と言われてしまう。まさに「危機介入の必要なケース」ほど、保健所は権限を振りかざして、警察に振っているのだ

この図だけでも、相模原の事件の本質を表しているだろう。

そして現状の仕組みでは、保健所が、図4に示されたような精神障害者の危機事象……「自殺」「虐待」「ひきこもり」「自傷・他害」「迷惑行為」などについて、対象者や家族、近隣住民が安心できるような解決策を提示・介入・実行できているとは、とても言えない。「絵に描いた餅」を、よだれまみれで眺めているだけであることは、素人さんにも明白なのである。

しかしながら残念なことに、この構図に沿って、保健所にお金が流れていることもまた事実で、このお金の流れについても、注視する必要がある。

なお、これらの資料や図表はネットでも読むことができる。俺からすると、とっても分かりやすいと思うのだが、いつものごとく、メディアでは取り上げない。とはいえ、そろそろ一般市民の方々も、真実・本質を知りたがっているのではないかと感じている。

「保健所による精神障害者の危機介入」こそ、問題解決の初動であり、根幹となる部分なのだから、メディアも市民も、監視の目を光らせねばならない。

俺なりに今後もせっせと書き記していく。