命を一番に考える
この間、懇意にしている若い精神科医とメシを食った。
彼は、症状が慢性化、重篤化しているような患者さんの治療にも積極的に当たっている、今どき珍しいガッツのあるドクターだ(そして、なんでか知らんが、俺のことをすごくリスペクトしてくれている)。その彼がしみじみ言っていたのが、「入院治療を受けると、良くなるんですよ」ということだ。服薬をきちんとすることはもちろん、夜はちゃんと寝て、朝起きる。栄養バランスを考えられた食事を摂る。「だから、家にいたときよりも、格段に健康になるんですよ」と。
患者さん本人が「早死にしてもいいから、好き勝手に生きたい」と言うならまだしも、少なくとも俺が会ってきた患者さん達は、「こんな生活を続けていて、死にたいのか?」と尋ねると、口を揃えて「長生きしたい!」と答えた。ならば長生きできるような生活を送らなければならない。
論文などによれば、統合失調症患者の平均寿命は61歳(アメリカでは56歳)と言われ、一般的な平均寿命よりもかなり短い。服薬がなんらかの副作用をもたらしているのではないかという説もあるが、それ以外にも、自殺や不慮の事故、身体疾患(ガンなど重篤な病気に罹患し、体調不良を感じていても、患者がその症状を医師にうまく説明できない)といった要因があるそうだ。
アメリカに関して言えば、「子供の死を祈る親たち (新潮文庫)」でも紹介したように、脱施設化の失敗により患者のホームレス化が進み、事件や事故に巻き込まれたり、警察官に射殺されたりする事態が相次いでいる。こういったことも、寿命の短さにつながっていると推測される。
日本では今まさに地域移行が進められている。そのこと自体に反対するつもりはないし、障害をもつ方々にとって生きやすい社会であってほしいと思っている。だがときどき、地域移行を、「=精神科病院(入院治療)不要論」と同等に語る専門家がいて、それはちょっと違うのではないか、と思うのだ。
俺の知り合いの若い精神科医は、重篤化した患者さんをたくさん診ているからこそ、精神科病院(入院治療)の重要性を強く訴えていた。俺はそんな彼をみて「こいつは、患者さんに長生きしてほしいんだな。命のことを一番に考えているんだな」と思い、ひそかに感動した。