異常な言動 クリスマス前が最高に激化する

クリスマス

11月に入ったとたん、街のショーウィンドウはクリスマス一色になった。すでにイルミネーションが灯っているところもある。この季節、俺の携帯には物騒な着信が増える。

「三鷹の女子高校生を殺したのは僕なんで、押川さんに話さないといけないことがあります」

「○○さん(うちの女性スタッフ)を殺しちゃったんですけど、押川さん知ってますか」

「殺人事件を起こしたんですけど、まだ警察が来ないですね」

長期の入院治療を余儀なくされている男性患者からの電話だ。多い時は一日に50回くらい、着信があったりする。

この男性は、過去に精神疾患が原因で、「自分は特別な存在である」と妄想を抱き、傷害や強姦をくりかえしていた。ふだんは服薬などによりある程度、症状は抑えられているのだが、この時期は毎年、妄想が激しくなる。

そして症状が悪化するのは、この男性に限ったことではない。

男性患者が院内で暴力沙汰を起こし、保護室に入りましたという、病院職員からの連絡が来たり、(保護室とは、精神障害者に対して医療および保護のために「隔離」が必要な場合に、提供される個室のこと)女性患者からも、入院中は原則として念入りな化粧はできないはずなのに、「メイク道具が必要だから買ってきて!」という電話が来たりする。

病名は様々だが、いずれも継続的に入院治療を受けている人たちだ。上述したような言動が、逆に入院を長期にさせてしまっているとも言える。

クリスマスの時期には、入院治療中の患者さんだけでなく、過去に入通院歴がある人たち、あるいは精神疾患の疑いがあるような人たちの中で、状態が悪くなり、入院治療が必要になってくるような人も出てくる。つまり、俺の携帯もバンバン鳴るし、事務所への問い合わせの電話も、バンバン鳴る時期なのである。

クリスマス関連のイベントが、年々早く、派手になっていることも、影響していると思う。俺は、11月のちょっと淋しいくらいの静けさが、わりと好きなんだけど、都会ではもはや、残暑が終わればクリスマスだ。

ショーウィンドウやイルミネーションが典型的な例だが、今は何かっていうと、購買意欲を刺激するような情報が飛び交い、どこを向いても、目移りするほどの商品が並べられる。消費者は、本能を刺激され、高揚する。すべては売る側の、「欲」を刺激するための商戦なんだけど、みんな見事にそこに乗っかっている。

イベントや流行モノを、マイペースに楽しめる人も、もちろんいるだろう。でも、欲望が現実に叶わないことで、「ああしなきゃ、こうしなきゃ」と焦燥感を抱く人もいる。ひどいときには、世間と自分を比べて落ち込んでうつ状態になったり、被害妄想を抱いたりするようにもなる。それが性衝動にむすびつくことも、大いにある。

そもそもこういうイベントごとに過剰反応する人は、成長の過程で親から、愛情や肌の温もりという「人間」としての関わりをもらっていないケースが多い。そのくせ、表面的なつながりは大事にする…つまり、誕生日やクリスマスといったイベントごとだけは盛大にやってもらっている。

だからこそ本人は、イベントこそが「愛情」や「自分の存在意義」の確認行為だと、認識するようになってしまっている。期待通りにいかなければ、自暴自棄にもなる。

結局は「人」に帰結する話なんだけどな。

クリスマス、バレンタイン、夏の花火大会……イベント商戦は常に「あなたには大切な人がいるのか?」と突きつけてくる。彼氏、彼女はいるのか? 家族や友達との関係はうまくいっているのか? だからもともとコミュニケーションが下手な人、社会にうまく交われていないと感じている人は、この時期、心のバランスを崩しやすく、ひいては問題行動を起こしやすくなる、というわけだ。

 

ちなみに、相談の電話が増える時期は、以下のとおりである。

1位 11月~12月25日までの、日本中がクリスマス仕様になる時期

2位 夏。特に花火大会や、盆休みの旅行シーズン。女性の肌の露出が増える暑い時期

3位 正月休みが終わり~2月14日、日本中がバレンタイン仕様になる時期

4位 春先~ゴールデンウィーク

ある意味、年中ではある。

「自分には関係ない」と思う人もいるだろうか。でも、あなたの周りにもいないだろうか。こういったイベントにやたらと反応し、一緒に楽しんだり、大切にしたりしなければ、「愛があるのか」とか、「自分のことが嫌いなのか」とか何とか言い出し、ひどいときには泣き叫んだり、暴れたりする恋人や友達が。

こういう人との付き合いは、よほどの忍耐力がないと、継続していくことは難しいぞ、と俺は言っておこう。俺なんかは、イベントごとに過剰な反応を示す人とは、仕事はともかくプライベートでは一切付き合いをしない、と決めている。仕事上での我慢強さや忍耐力はケタ外れにある俺でも、プライベートではそんなことに付き合う忍耐力は、まったくないからね。

「自分は、友達や恋人とイベントごとを楽しんでいるけど、大丈夫だよ」と、まだ言う人がいるだろうか。俺はもう一度だけ忠告しておく。深みにはまりすぎるなよ。そういう相手と、互いに楽しんでいる時期はいいが、いざ別れたいとなった時、簡単に別れてもらえないということも、ありえるぞ。イベントで盛り上がって、裸の写メや動画なんか撮らせるなよ。あとになって、「写真を持ち出して、嫌がらせやストーカーをされている」って、俺に泣きついてくる人が、本当に多いんだからな。