社会的支援とは!?

同居する妻(64)に頼まれて刺殺したとして嘱託殺人罪に問われた夫(60)に対して、懲役3年、執行猶予5年の判決が言い渡された。夫婦はともに統合失調症で、精神障害者の集会で出会って結婚し、その後も入退院を繰り返す生活を送っていたという。判決に関する記事を、以下に引用する。

「自殺する前に私を」妻に頼まれ刺殺 嘱託殺人の男有罪 執行猶予5年、精神障害を考慮 青森地裁八戸支部判決

同居する妻(64)に頼まれて刺殺したとして、嘱託殺人罪に問われた青森県八戸市新井田、無職馬場勝美被告(60)の裁判で、青森地裁八戸支部は21日、懲役3年、執行猶予5年(求刑懲役4年)の判決を言い渡した。
橋本修裁判長は「犯行は極めて短絡的でむごい」と指摘しつつ、精神障害による馬場被告の判断能力の低下を考慮。「妻に生き続けてもらう方法を考えることができなかったやむを得ない面がある。悪質と言えない」と判断した。
判決によると、馬場被告は5月下旬、体調不良により再入院させられるのではないかという不安から自殺を考えている旨を妻洋子さんに話したところ、「自分を刺してから死んでほしい」などと頼まれ心中を決意。6月1日夕方ごろ、自宅で洋子さんの左胸を包丁で刺して殺害した。

◎患者夫婦の悲劇 専門家「社会支援必要だった」

青森地裁八戸支部で21日にあった嘱託殺人事件の判決。公判では統合失調症に長年苦しんできた無職馬場勝美被告(60)と、被害者となった妻洋子さん(64)が厳しい環境で暮らしていたことが浮かび上がった。専門家は「夫婦は社会的支援が必要な状態だった」と指摘する。
判決などによると、夫婦は精神障害者の集会で出会って結婚した。だが、15年以上にわたる2人の暮らしは統合失調症による入退院の繰り返しだった。
統合失調症などの患者が共同で生活する「べてるの家」(北海道浦河町)を創設した向谷地生良北海道医療大教授(看護福祉学)は「事件の背景には病気を抱えた夫婦の孤独感があるのではないか」と指摘する。
2013年に障害者総合支援法が施行され、精神障害者らが尊厳ある社会生活を営むことができるよう公的にサポートすることとなった。就労なども含めた支援策は整ったが、夫婦がともに患っているケースでは、悩みを抱え込んでしまうこともあるという。
今回の事件でも、馬場被告が暮らしていたアパート周辺の住民は「夫婦とほとんど関わりがなかった」と口をそろえる。公判でも夫婦が地域から孤立していた様子が垣間見えた。
近年、精神障害者の自助グループの活動が盛んになり、出会いの場が増えているという。患者同士が結婚、出産することへの偏見もかつてに比べれば弱まっているとされる。
向谷地教授は「お互いが病気だと、周囲は悩みを抱え込んでいるかどうかも分からない。地域が病気への理解を深め、積極的に関わっていくことも重要だ」と強調した。

引用:河北新聞 2018/09/22

 

記事では社会的支援の必要性が説かれているが、医療につながっていたことを考えると、支援を受けるだけの土台は整っていたのではないかと思う。それでも結果的に夫は「自殺」を考え、妻を殺害するほどに孤立してしまった。

となると、「社会的支援」とは具体的にいったい何なのだろう。地域による「おせっかい文化」の復活は一つの理想だが、声かけや見守りくらいはできても、家族(夫婦)の問題への介入や、ましてや自殺防止など危機介入までは、地域住民にはとても背負えない。

以下の図は、俺が某所で講演をしたときに作成したものだが、【悪役の役割】=【危機的状況にある当事者・家族に対して、一歩を踏み込めるプロフェッショナル】の存在なくしては、当事者も家族も、専門家も専門機関も動かないことは、もはや明白である。

しかし近頃は、【悪役】の存在ですら「人権侵害」と言われるようになってしまった。そうこうするうちに、「自殺する自由」「家族を殺す自由」……そんなものがまかり通っているように思えて、薄ら寒い思いがするのは俺だけだろうか。