俺の人生哲学~『探偵物語』
『探偵物語』は、1979年9月18日から1980年4月1日まで日本テレビ系列で全27話が放送されたテレビドラマ。主演の松田優作の中期の代表作。
高校生の頃『探偵物語』の再放送を観た。
俺は子供の頃、夏休みのたびに東京の叔父のところに遊びに行っていたので、東京という街に対しての憧れは、同級生とは比べものにならないほどにあった。
とくに超高層ビルが建っていた新宿への憧れはそうとうなもので、新宿界隈がメインの『探偵物語』には、初めて観た時からのめりこんだ。その集中力は、異常と呼べるほどだったと思う。
俺は、『探偵物語』から、人間哲学を学び、その哲学を実践できる仕事こそが、自分の仕事になると思ってきた。そして「精神障害者移送サービス」にたどりつき、今日まできた。同時にジャーナリズムも、この『探偵物語』で学んだ。
『探偵物語』では、松田優作演じる工藤俊作が、彼自身の哲学を語るシーンがある。俺は高校生で『探偵物語』を観た時、その哲学を夢中になって大学ノートに書き写した。当時の大学ノートはもうなくしてしまったが、俺は大人になってから『探偵物語』を見直し、工藤俊作の哲学を、大学ノートに再び書き写した。
俺は今でも、そのノートを持っている。工藤俊作の哲学は、俺の生きる指針でもあり、実践することで人間力を培い続けることができている。今では俺の身体の一部に組み込まれているといっても過言ではない。
「あのね、私は主義として理屈が通って法律に触れなければ、(仕事は)大体引き受けるんですけどね。あと相手が信用できるかっちゅうかね」。
「俺たちはね、そんな利己的な暴力よりも、ほんの何気ない優しさが欲しいんだよ」。
「人間ていうのはさ、なんかこうあの、冗談か本気か分かんないギリギリのところで生きてるんじゃないかしら」。
「いつも事実が真実語ってるとは限らないんだよな」。
(田舎の役所に勤めている生真面目な兄に向って)「こういう東京っちゅう街でさ、こんな商売(探偵業)長くやってると、なんとなく物の価値観ってのは表向きじゃあ測れないってことが分かって来るわけさ。例えばね表向きは綺麗に着飾ってても、裏にまわりゃあ、とんでもない落とし穴が待ってたりするんだよ。だからさ、まぁその逆もありうるっちゅうことさ。例えば、人から後指さされる仕事やってる人でも、いざという時にゃあ人のために一生懸命やってくれるような、そんな優しい人が多いんだよ。だからさ妹さん(婚約している男の借金を売春で返済している)のことでも、一方的な価値判断じゃあ可哀想過ぎるんじゃない」。
「あのねぇ、職業蔑視しちゃだめだよ。どんな商売だってねぇ、売春婦だってなんだって同じ血が流れてるんだから。商売のこと言っちゃダメだよ。物の善悪はね、表向きで捉えちゃダメ」。
(金の為に犯罪をおかした女性に対して、捕まる直前に)「金が人生だなんて寂しい生き方もうやめようじゃないか。世の中にはねぇ、考え方一つでもっとまともに面白おかしく暮らせる方法はいくらでもあんだよ。あんたも俺も、多分その日暮らしの方が性に合ってるよ。バカなことはやめな。あんたな、ちょっとな、遊び方を間違っただけ。分かったな?」。
命の危険があるようなヤバい現場にいく、俺の最大のモチベーションは、これらの言葉に凝縮されている。
俺は小学校の先生から「その日その日を一生懸命生きろ」と教えられた。単純な俺は、その言葉を胸にきざみ、一生懸命実行してきた。「その日暮らしの押川」の土台は、幼少期に出来上がっていたのだ。
そして、それに対して思いっきり背中を押してくれたのが、工藤俊作(松田優作)だった。俺がマイノリティーに対して気持ちが熱くなるのも、『探偵物語』で、本当のやさしい気持ちを見たからだ。