専門家は、本人ではなく親、家族を見る
俺が20年前に「精神障害者移送サービス」を始めた頃に比べると、精神保健分野の専門機関は、格段にレベルアップしている。とくに医療機関の中には、専門分野に特化し、細やかな治療を行う病院が増えた。
たとえばアルコールや薬物依存症の治療を行っている病院もそうだし、最近は、精神疾患が理由のひきこもりなど、社会参加できないでいる患者さんのために、専門の治療を行っている病院もある。そこでは、人との接し方やコミュニケーションを学べるプログラムもあるという。
当然、そういう病院には全国から患者さんが集まるから、予約はいっぱいだし、継続的に診てもらうにも一苦労だ。
この間、精神科医とざっくばらんに話をする機会があって、そのへんの最新事情を聞いてみた。その医師は俺に教えてくれた。「医療機関(医師)は、当事者よりも親を見て、診察を継続するか決めるんですよ」と。
俺は、やっぱりそうなんだな、と思った。俺のところにくる相談でも、その側面は切っても切れないところだからだ。以下、敬遠されがちな親の特徴を挙げる。
・物腰はソフトなんだけど、自分の意見や考えを絶対に曲げない親
・子供はもう何年も通院したり服薬したりしているのに(そして親もそれを勧めているのに)「うちの子は病気じゃないと思う」と言う親
・反対に、子供が犯罪を繰り返しているにもかかわらず、通報もせず「うちの子は心の病気なので」と言い張る親
・なんだかんだ言いながら、本人の行動を許している、あるいは助長している親
・自分の関わり方には一切ふれず、専門家や専門機関に、上から目線の批判ばかりを繰り返す親
・専門家や専門機関の治療に対して、非現実的、理想的な結果だけを要求する親
・医療機関につないだあとは、本人への対応もすべて、医師や職員に丸投げする親
・例えば父親と母親の意見が異なるなど、見解が一つになっていない家族
こういう親、家族は、俺のところにも来る。言葉は悪いけど、ようするに面倒な親、面倒な家族だ。当事者である本人(子供など)に、こういう面倒な親、家族がついていると、医療機関もその他の専門機関も、及び腰になる。
「もう少し様子をみてはどうですか」「本人を連れてくれば対応をとります」「現在滿床なので」とかなんとか言葉を濁されて、通院や入院を拒否される。
ちなみに、自分の意見を曲げない親とか、すじの通っていない対応をする親っていうのは、結局子供に対しても、同じような態度をとってしまっている。だから子供はよけいに迷走し、場合によっては激しく反発もするし、事件沙汰にもなる。
俺は長年この仕事を続けてきたおかげで、そういう面倒な家族の対応にも、はっきり言って慣れている。本人だけじゃなくて、家族を説得することもできる。
俺のところに相談に来た家族が、喧嘩や言い争いを始めることも、よくある。俺的には、それもOKだ。むしろ言いたいことを言い合って、見解を一致させることのほうが、本人のためになるからだ。
だけど医療機関や保健所などの専門機関にしてみたら、本人じゃなくて親や家族を説得したり、納得させたりする悠長な時間や余裕はないに決まっている。
前にも書いたけど、来年4月から施行される精神保健福祉法の改正のおかげで、親や家族など保護者の立場は、瀬戸際に立たされるようになると俺は考えている。ややこしくて、面倒な家族を、医療機関が受け入れる訳がないのである。それは、医療機関側の危機管理であり、コンプライアンスでもある。
本人が納得して医療にかかることはもちろんだし、家族が見解をともにし、当事者を支える立場として足並みをそろえること。今後はますます、この二点が重要になってくる。俺の得意分野である「説得」も、今まで以上に求められるはずだ。
いずれにしても家族には、「非常に困っているから、なんとか助けてほしい」と、問題に真摯に取り組む姿勢が求められる。すぐれた精神科医療にかかり問題を解決したいと願う親、家族は、そこのところを十分、理解する必要がある。
もし、こういう問題に悩んでいる家族で、「どこの専門機関に行っても、相手にしてもらえない」という人がいたら、俺のところに相談に来ればいい。その理由は、本人よりも、あなたたち親、家族にあるのかもしれない。
俺が、答えを教えますよ。